ヤマネコ-ノ-ツガイ【アッシュ】BANANAFISH
第14章 消えない傷
《アスランside》
心がどんどん色を失っていく。
涙で色が滲んで全て混ざり合い、暗い汚い色になってしまったかのようだった。
ごめん、というユウコへの言葉も対象が多すぎてもはや何に対してのごめんなのか自分でもよくわからなくなっていた。
首に傷を作らせてごめん、目隠しを取ってあげられなくてごめん、そのせいで怖い思いをさせてごめん。
結局僕が今までの誰よりもキミを傷つけることになるなんて…
絶対に守ってあげるって約束したのに。
約束も、キミ自身のことも守れなくて
…本当にごめんね
何度も重ねてきたユウコとの大好きなキスも、今は胸が苦しくてたまらない。だって今どんなにこのキスが心地よくたって、このあと僕はユウコをひどく傷つけることになる。
あの痛みを、あの苦しみを…
僕が、ユウコに。
さっきディノの命令で、そこの仮面の男はユウコにナイフを振りかざした。そして躊躇もなく心臓へ真っ直ぐ、シャツにギリギリ当たらない位置に刃先を突き立てた。
次僕がディノに逆らえば、ユウコは確実にコイツに殺される。その現実を至近距離で突きつけられて、僕に選択肢はなくなってしまった。もう逆らうことは許されない。…ユウコが死ぬなんて考えられない。
嫌だ、無理だ、出来ない、その思いが消えたわけではないけれど…今はただ今朝見せられたビデオ内の行為を思い出して、ユウコのシャツのボタンに手を掛けた。
プツン、プツン…
ユウコのシャツのボタンをこういう意図で外すのは、マービンのところで以来か…指がすごく震えている。あの時のユウコもこんな感じだったのかな…
プツン……プツン、
最後のひとつを外し終えるとユウコは、こわいと唇を震わせた。アスラン、アスランと僕の名前を呼ぶ声にズキンと胸の奥が痛む。そうだよね、怖いよね…何も見えない上に腕も後ろで拘束されて…首の傷だって…ほら血が滲んで、痛いはずだ。…ごめん。
ボタンを外したシャツの間から、クリスにつけられたキスマークがまだ赤く主張している。
「……ひらくね」
僕はシャツをゆっくり開いた。
…わぁ
なんて綺麗なんだろう。
ドクンッと心臓が強く鳴る。
「……き、れい」
思わず零れた僕の言葉にユウコは身を捩った。