ヤマネコ-ノ-ツガイ【アッシュ】BANANAFISH
第14章 消えない傷
「いやだ…っ、キミを傷つけたくない…」
『……アスラン?』
「あんな思い…させたくない…」
「何をしているんだアッシュ」
突然パパの声が響いた。
「…さっさとはじめないか、お客様方を退屈させる気かね?」
「……ッ…で…」
「涙は最高のスパイスだ、枯れ果てるまで流すといい。…だが、“出来ない”は禁句だ。何度も言うが出来ないではなく、やるのだよ…でないと、」
パパがそう言った瞬間、
「…っわ!」
ジャラジャラと音を立ててアスランが離れていく。
『アスラン?…な、に?』
何が起こっているのか分からず見回していると、アスランの叫び声が聞こえた。
「ユウコ!!!」
「この子にまた傷が増えてしまうね…いいのかい?」
「っやだ…やめ、て…!」
『……なにが…?』
「ああ、傷だけでは生温いのかもしれないな…もしもう一度お前が出来ないと口にしたその時は……」
「……うわぁあああっ!!!」
『…っ!?』
「ハハハ…ようやく理解したか
…そのナイフ、次は止まらないぞ?」
「…っはあ…はあ…はぁ」
『……なに?』
今何が起こっているの?
見えない…怖い…
「では、はじめなさい」
『パ、パ…っ』
「…どうした?」
『おねがい…目の、はずして…?見えないとこわいの…』
「ああ、いいとも。アッシュ、ユウコの目隠しはお前が外しなさい。…この子の視線の中このあとの行為に及べるのであれば、だがね」
「……っ!」
「いつ外すのか、それとも最後まで外さないのか…それはお前が判断しなさい」
「……っは…ぁ」
パパのコツコツという靴音が遠ざかる。
『…アスラン、外して?』
「…ご…めん、ユウコ…」
『……え?』
「…ごめん」
アスランは先程よりも震えた涙声で私にごめんと繰り返すと、目を覆う布を撫でて唇を深く重ねた。