ヤマネコ-ノ-ツガイ【アッシュ】BANANAFISH
第14章 消えない傷
たくさんの人の声、拍手の音、私は今どこにいるの?
アスランがいるってことはステージの上なのかな…さっきあの人たちが言ってたダンスってなに?
何も分からなくて、見えなくて、動けなくて痛くて怖くて仕方ないのに、ずっと近くにいると思われるアスランは私を抱き締めてくれない。代わりに感じるのは後ろから私を押さえつける誰かの震える腕の体温とくぐもる荒い息だけ。
何度かパパが私の名前を口にしたのは分かったけど、時折後ろの人に耳を押さえつけられて何の話をしているのかはよく聞こえなかった。
『…っう、ぅ…』
不安からずっと溢れて止まらない涙は目を覆う布に全部吸われていく。
「……かみ、さま…」
拍手が鳴り止んで静かになった時、聞き覚えのある声が足元の方から聞こえた。
『…ア……ァ、スラン?…ど、こ?』
「……っ、どうか…かみさま」
『……アスラン…?』
何度か名前を呼ぶと、ギッと音がしてベッドが沈んだ
誰…?
『…っ!…だ、だれ?』
徐々に近付いてくる誰かは何も答えてくれない。
ついに私の足にその体がぶつかる。
『!やっ…たすけて…アスラ…ッ』
「…っ…ユウコ」
アスランの声?
『…っえ…アス、ラン…?』
「…うん、ぼく…」
ほんとう…?
確かにアスランの声はするけど、じゃあどうしてぎゅってしてくれないの?
私は傷の痛みを我慢しながら少し体を起こして、確かめるように身を寄せてみる。すると、トンッとおでこが体のどこかに当たった。
『…ぁ』
「……ユウコ、」
少し上の方で声がするということは、私のおでこが当たったのは胸だ。私はそのまま擦るように上がり顔を首のあたりにやる。
スゥ、と匂いを嗅ぐとよく知る大好きなアスランの匂いがした。
『…っあ…、アスラン…だ』
「!!……ッぅ、う…っユウコ…!」
突然、ジャラッと金属の音がしてギュッと強く抱き締められた。何度も何度も私の名前を呼ぶアスランの声はとても震えている。
…アスラン、やっぱり泣いてる
私も同じように抱き締めたくて、腕に力を入れるけど拘束は全く緩まない。
『…ア、スラ…ン…ッど、したの?』
「…っひ、ぐ……いや、だよ…」
嗚咽と共に小さな声でアスランはいやだ、と繰り返した。