ヤマネコ-ノ-ツガイ【アッシュ】BANANAFISH
第14章 消えない傷
《アスランside》
『…ひぅっ!…ッい、ぁああ…!』
ユウコの叫び声に目を向けると、仮面を着けた男がナイフをユウコの首に浅く突きつけゆっくり動かした。
「あ、ぁあ…っユウコ…!!!」
『ア゛ズ…ッ…アスラッ…たすけ…て』
「もう1ヶ所だ」
「…はい」
『っ!…いゃぁああぁあ!!』
「ユウコ!…やめろ…っ!離せよ…!!」
両腕の鎖を男に引かれ檻に近付くことが出来ない。
『ぅ、アス…ラン…っいたい…よ…ぉ』
「あ……っ……ユウコ…!」
「…アッシュ、私は元々このような手荒な真似をする気は無かったのだ…しかし貴様が私に逆らうというのであれば致し方ない…どうする、まだユウコの傷跡を増やすかね?そうだな…今度は首ではなくその柔らかな頬にしようか」
その言葉に従うように仮面の男はナイフをスッと顔にやった。
『…っや!…たすけて…ア…ス…』
「…っ!…もう…やめて…っもう…ユウコをこれ以上傷つけないで…お願い…!」
「野垂れ死にそうだった貴様らを拾い、ここまで生かしてやったのはこの私だ…主人に逆らうなど言語道断。次はない…覚えておけ、私がお前を従わせることなど造作もないのだ。
……さて皆様方、随分と長いオープニングアクトとなりましたが、ショーのメインはここからです。日頃より皆様方に可愛がって頂いているアッシュもついに精通を迎えましてね、この子にも1人のオスとしての悦びを体験させてやろうとこのロストヴァージンショーを計画しました。…もちろんこちらのメスも性交経験のない正真正銘のヴァージンですよ。
この2人は幼い頃から共に過ごしてきたらしく不思議な絆をもっています。そんな清らかな少年少女が…これから皆様方の目の前で大人の男女の愛の交わりを魅せるのです。
…本日はどうぞ、この2人の“生”と“性”を心ゆくまでお楽しみください」
拍手と歓声がどこか遠くに聞こえる。
ドクンドクンと嫌な音を立てる心臓も、頬を伝う涙も…全部が自分のじゃないみたいだ。
トンッと背中を押されて、足が勝手に数歩進むとガシャンと背後で扉が閉まる。
神様…お願いします。
僕たちを助けてください。
あの大きな月の夜の奇跡みたいに…
どうか、神様…。