ヤマネコ-ノ-ツガイ【アッシュ】BANANAFISH
第5章 人は空を飛べるか
「(…キミたちには一体、なにがあったの?)」
『(…そ、それは……)』
私が答えられずに下を向いていると、スキップが大きなあくびをして「ふわぁあ、よく寝た!」と起き上がった。
その声にピクッと眉毛を動かすと、アッシュは目を開けた
「あ、気がついた?具合どう?」
「……どのくらい眠ってた?」
「そうだな、1時間ぐらいかな…」
ゆっくり体を起こすアッシュ
「あちちちち…」
顔を歪め痛そうに傷を押さえている。
『アッシュ、無理しないで?』
「…あばらをやられてるらしいな…息をするといてえや」
「横になってたほうがいいよ」
エイジはそういうが、私とアッシュはドアの向こうの気配に意識を向ける。
「…どうやらそうも言っていられないらしいぜ」
ガチャ
ギギギギギ…
「よお、山猫カップル…昔みたいに傷を舐め合いながら、交尾でもしてたかよ?」
現れたマービンの姿に私の体が固まる。
「…カップルだと?俺たちは、喧嘩したら“ハイ、さようなら”ってそんな甘っちょろい関係だったことは1度もねぇよ」
「ふん、気分はどうだね?」
「マービン…俺たちをどうする気だ…殺すのか?」
「それはお前次第さ…おまえがいい子になるんならパパにとりなしてやらんこともないぜ」
「…わかったよ…」
「素直になる気になったか?」
「話がある…あんたにだけ」
「いいとも…おまえら向こうへ行ってな」
そうマービンが言うと周りにいたオーサーを含む男数人が怒鳴り声をあげ揉め始めた。
私は無意識にガタガタと震える。マービンを見ると思い出してしまう、最悪な記憶のほんの1部分を。
そんな私を見たアッシュは耳元で「ユウコ」と名前を呼ぶと私の背中に優しく触れる。刹那、その震えは止まった。
言い争いは収束したのか「お楽しみもほどほどにしろよ」とドアを閉め部屋の中にはマービンだけが残った。
「?」
「あいつホモなんだ、アッシュに気があるんだよ」
「えええーっ!!」
「しーっ!」
「で、何を話したいんだ?」
「…ギャラリーのいるところじゃやだぜ、なあユウコ?…俺たちだけになれるとこ、ないの?」
『…私も…久しぶりだし、人前じゃ…いやです』
アッシュはセクシーに自分の体を手のひらでなぞり、そのままの流れで手の甲を私の頬に滑らせた。その手をぎゅっと握ると上目遣いでマービンを見る。