ヤマネコ-ノ-ツガイ【アッシュ】BANANAFISH
第14章 消えない傷
《アスランside》
「…どこに行くの?」
あのあと見慣れない男が部屋にやってきて車に案内された。何度か話し掛けたけど何も反応はない。
窓の外を見ると賑やかな通りに出ていた。
どこに連れていくつもりだ?
ユウコはもうそこにいるのかな…。
やがて辿り着いたのは、表通りから少し入った人通りも疎らな所だった。外のスーツを着た男が合図している。
「僕はどこにきたの?」
「……劇場だ、さあ大人しく着いていけよ」
劇場…?
ガチャとドアが開いて、外の男が僕の腕を掴んだ。
「こっちだ」
グイグイと引っ張られるままについて行くと、建物の中のある部屋でようやく解放された。
「ここで待っていろ」
「…まって!」
「なんだ」
「ここでなにがあるの?」
「なにって、ショーだよ」
「…ショー?」
「もう表にはたくさんの客が主役の登場を今か今かと待ってる。仮面を着け、身分を隠した状態でな」
男は部屋にあるモニターの電源をつけた。
そこに映し出されたのは、劇場内の様子と思わしき映像だった。
なんだ、これ…
異様な光景に息を飲んだ。
客席らしきフロアには所々に丸テーブルがありその上にフルーツやグラスが並んでいる。その脇で顔に仮面を着けたたくさんの男たちがガランとしたステージを眺めていた。
「…客席を取り払い、さながら立食パーティーのようだろ?想像もつかない程の額が掛かった特別仕様だ。…もちろん劇場管理者への賄賂も含めてな。チケットの値段も普通じゃ払えないかなりのもので、元々信用の出来る限られた人数にしか案内は送っていないそうだがそれでもほぼ全員が良い返事を寄越したそうだよ」
その時、ステージの端に見慣れた姿が現れた。
ディノだ。
ーー「大変お待たせ致しました」
「おっ、そろそろだな…移動するぞ」
「…どこに?」
「ステージの袖さ」
「…っ…どうして僕が!?」
腕を引かれ細い通路を歩く。聞き慣れたディノの声が劇場に響いている。
ーー「長々と私が話すより早速このショーの主役を登場させましょう」
「どうしてもなにもこのショーの主役は…」
立ち止まったと思ったら突然幕の間に背中を押された。
「…っ!?」
「お前だからだよ」
おぉという歓声と拍手に僕が顔をあげるとそこはステージの真ん中だった。