ヤマネコ-ノ-ツガイ【アッシュ】BANANAFISH
第14章 消えない傷
何も見えない、身体の自由もきかない、すぐに会えると思っていたアスランは傍にいない…そんな不安な中で私はずっと泣き続けていた。
そして、
ここにきてどれくらいが経ったのか、私はいつしか泣き疲れて眠ってしまっていた。
ドルンッ
ブォオオオ
『ッ!?』
突然体に響くような振動を感じ飛び起きる。
まだぼうっとする頭を必死に起こす。
あれ…動いてる?
この揺れと音、
『……くるま?』
そうだ、多分ここは車の中だ。寝ている間に乗せられたのかもしれない。
…一体どこに向かっているんだろう。
不安に拍車がかかる。
『……アス、ラン…ッ』
何度その名前を呼んでも返事は聞こえなかった。
2、30分ほど経ったところで揺れが止まりエンジンの音も消えた。
ドアが開くような音がして、身体がガタッと揺れる
『……わ…っ』
「あ?起きたのか?」
「檻に入れる時に寝ててくれて助かったぜ、ピーピー騒がれたらたまったもんじゃねぇからな」
…檻?
よっ、と数人の男たちの声が聞こえて揺れが酷くなった。
『…やっ…!』
「大人しくしとけよ」
「暴れたら落としちまうぜ」
「さあ、ついた…楽屋口はどこだ?」
「俺、劇場なんか来たこともねぇよ」
「まったくだ。…にしても、オフ・ブロードウェイを貸し切っちまうなんてな」
『……ここどこ…アスランは…?』
「ここはマンハッタンの劇場さ」
「アッシュとはもう1時間もすれば会えるぜ、…ステージの上でな」
『…ステージの、上?』
「ああ、アッシュとお前は上客の前でとびきりセクシーで淫らなダンスを披露するんだ」
「おっと…表はもう客が入り始めてるな、政治の重鎮ばかりらしい…仮面を着けてマスカレイド形式だ」
「お偉い方の性癖はなかなかに狂ってやがる」
「シッ、誰かに聞かれるぞ」
「楽屋口あったぜ、あの扉だ」
劇場、ステージ、ダンス…?
初めて聞くワードだ。
私ダンスなんて踊れないのに…
どうしよう…、早くアスランに会いたい
不安は最高潮に達して、目に被さる布に涙が染み込む。
建物の中に入ったらしく環境音が聞こえなくなった。
「さぁ、小さい檻から大きい檻にお引越しだ。出てきな」
「よし…このベッドの上に乗せてリードはこっち、と」
準備OKだと男たちはどこかに行ってしまった。