ヤマネコ-ノ-ツガイ【アッシュ】BANANAFISH
第14章 消えない傷
鏡越しにマシューを見ると、私の髪をブラシで梳かしながら何度も何度も溢れる涙を拭っていた。
『…マ、マシュー?なにかあったの?』
「…ユウコ、」
『っ、なあに?』
「アッシュが…短い髪のユウコも素敵だって言ってたよ」
『…えっ?…ほんとう?』
「うん、かわいいって」
『……わあ』
「…顔、真っ赤」
このやり取り何回目かな、とマシューは微笑んだ。
『ふふ…うれしい』
「ユウコは、アッシュのことが本当に大好きなんだな…」
『…うん!』
「…どんなことがあっても?」
『え?』
「ユウコはどんなことが起きても、アッシュに何をされても…彼のことを好きだって言える?」
私は…
何が起きてもアスランのことが好きだった。
だからアスランに何をされたとしても、
『…うん、言える…ずっと大好き』
「…そっか…」
マシューは、何故かありがとうと言った。
「俺、信じてるよ…2人のこと」
『……マシュー?』
「約束したでしょ?…いつかユウコの一生に一度の幸せな日には、俺が世界で一番綺麗で可愛くしてあげるって…」
誕生日の時にマシューが言ってたことだ。私にはその幸せな日がいつのことを指しているのか分からなかったけど、とても嬉しかった。
「…もう一度言うよ、ユウコ…幸せになることを絶対に諦めないで」
『…うん!』
このあと私は用意されていた新品の白いシャツに着替えた。クリスにつけられた痕がまだ少し残ってる…これを見ると苦しい気持ちになる。クリスはあのあとどうなっちゃったんだろう…殺されたりしてないよね…?
なんだか突然不安に襲われる。
…こわい、アスランに会いたい。
『…マシュー、アスランにいつ会…』
脱衣所から出るとマシューは電話中だった。
「そう言われても、まだ11歳の子供ですよ…?メイクで欲情なんてするわけがない!パパには俺からあとで伝えます。…っあ、ユウコ着替え終わった?」
『…うん』
私をじっと見つめてマシューはこう言った。
「……ユウコ、赤いリップは大人になったらつけるんだよ」
『え?』
「アッシュが赤いリップのセクシーさに気付けるくらい大人になったら、ね」