ヤマネコ-ノ-ツガイ【アッシュ】BANANAFISH
第14章 消えない傷
ジョセフは私をチラチラと振り返るものの、何も話しかけてはこなかった。ある部屋の前に止まりブザーを鳴らすとドアが開いた。中にいたのはマシューだった。
「…あ、あぁ…ユウコ…」
『おはよう、マシュー』
「…では、頼む」
「まって…!」
「…なんだ?俺も諸々準備がある」
「わ、わかってるけど…なんとか!…っなんとか、出来ないの…?」
「またその話か…」
「だって」
「俺たちにはどうにもできない、お前もわかっているはずだ」
「だけど、こんなのあまりに残酷だ…!」
「今に決まった話ではない…2人がここに来ると決まった時にはもう既にパパはその考えを持っていた」
「だからそんなことはわかってるよ!…わかってるけど俺はこんなの耐えられない…どうしてジョセフはそんな平気な顔をしていられるんだよ…っ!!」
「お前にはこれが平気な顔に見えるのか!?」
突然言い争いがはじまって私はジョセフのお腹にしがみついた。こんなに大声を出すジョセフは初めて見た。
『ど、どうしたの…!?』
「……っ」
『けんか、しないで…?』
私が振り返ると、マシューは涙をボロボロと流して私を見ていた。
『マシュー…?』
「……ジョー、」
「…マット……実は裏で色々動いてみたんだ、でもダメだった…もう俺達には2人を信じることしか出来ない」
「…ぅ…っ信じるって言ったって…」
「幸せを諦めるな、とこいつらに言ったのはお前だろう」
「……」
ジョセフもマシューもどうしたの?
何の話をしているの?
「……では、俺は行く」
ジョセフは私の頭にポンと手を置いて部屋を出ていった。
「…ご、めんね」
『マシュー、大丈夫?』
私は部屋にあったティッシュを数枚とって差し出した。
「あ…ありが…と…ユウコは…本当に優しい子だね…っ…どうしてこんないい子たちが大人の汚い欲に巻き込まれなくちゃいけないんだ…」
『……?』
「…ごめん……っ、こっちにおいで…髪を梳かそう」
ぐじゅぐじゅと涙を拭ってマシューは椅子を引いた。