ヤマネコ-ノ-ツガイ【アッシュ】BANANAFISH
第5章 人は空を飛べるか
視線を感じ、目をやるとフッと笑うエイジと目が合う。
『(なに?)』
「(いや、とても優しい目で彼を眺めていたから。)」
『(…そうだった?なんか恥ずかしいな。)』
「(君とアッシュはいつから一緒にいるの?)」
『(ずっと、かな?)』
「(え?)」
『(私たち幼なじみなの。)』
「(…でもキミの日本語はネイティブに感じるけど、)」
『(うん、私日本で生まれて3歳まで両親と暮らしてた。でも、父が運転する車に乗って3人で買い物に出かけた時、信号を無視した車に衝突されて2人が死んじゃって…。)』
「(…そんな)」
『(親戚に引き取り手もなかった私は孤児院に預けられてね…、4歳の時にケープコッドの夫婦の元に養子に入ったんだ。で、近所に同い年の男の子が住んでて…)』
「(それが、彼なんだね)」
『(…うん)』
そこからエイジと色々な話をした。
普段の生活のこと、日本の生まれ故郷のこと、幼少期の私たちのこと、
私たちが心に大怪我を負った出来事以外の話をたくさん。
「(なんだか納得したよ。)」
『(なにを?)』
「(キミたちの信頼関係、ってやつかな?普通どんなに仲が良くたって他人は他人のはずだろう?でもキミらは違う。自分のことよりも、まず当たり前に相手の最善を考える。まるで家族みたいに。)」
『(家族……ね。)』
私はエイジからアッシュに目を向ける。確かに私は自分のことよりもアッシュが大事だ。この胸の真ん中に居座る温かな恋心を抜きにしてもそう言いきれる。そして、アッシュも自身の命を投げ打ってまでも幼い頃から私を守ってくれた。
『(私、エイジと一緒にいると……アッシュのこともっと好きになっちゃいそうなんだけど…)』
「(なれなれ!オレがキューピッドになってやる!本物の番になっちまえ!)」
『(……それは、なれない)』
突然語気を落とした私にエイジは不思議そうな顔を向ける。
「(どうして?)」
『(アッシュが私を好きになるなんて、一生ありえないから…)』
「(…え?)」
『(さっきエイジは言ったでしょ?私たちは家族みたいだって。アッシュのLOVEは家族として。私のは……、だから私たちのLOVEは永遠に交わらない。それに、私はケープコッドを出てから随分とアッシュを苦しめちゃったの…アッシュに好きになってもらう資格なんてないんだ…)』