ヤマネコ-ノ-ツガイ【アッシュ】BANANAFISH
第14章 消えない傷
《アスランside》
あのあと僕はディノから色々な話を聞いた。
ユウコとクリスはセックスをしていなかったということ、ユウコから出ていた血の正体と女の子の体のこと…そして、セックスは本来妊娠を目的に男女がするのが一般的なのだということ。
僕はいつからそれが分からなくなっていたんだろう。
いや、セックスなんて行為…ましてや赤ちゃんがどうやったら出来るかなんて知らなかったんだから分からなくなったという表現はおかしいのかもしれないけど…。
コーチの男もディノもマービンも客も…セックスの対象は男だった。
僕はこれまでずっと男からセックスを強要されてきたし、好きだとか愛してるだとかをたくさん言われてきた。
…だから僕は、男の人は女の人を、女の人は男の人を好きになるということがいつの間にか当たり前だと思えなくなっていた。
『…っん、』
「…ユウコ…」
僕にしがみつくように眠るユウコを見る。
5日が経ったけど、起きてる時も寝ている時もユウコは僕から離れなかった。発作もまた頻繁に起こるようになっちゃったし、またあの時みたいなことが起きたら…と思うと僕も離れられなかった。
クリスに切られたユウコの髪は、マシューが短い部分に合わせて綺麗にカットしてくれた。マシューは、髪はまたすぐに伸びるから…と言いながら泣いていた。
ユウコの髪にキスをする。
「短いのも、にあってる」
指を通すとサラサラと心地いい。
「…どんなキミも、だいすきだよ」
性別なんて関係ない、僕はユウコだから好きになったんだ。
その時ピッピッとロックを解除する音が聞こえた。こんな時間に誰…?警戒しつつ寝たフリをしていると、足音が近付いてくる。
この革靴の音、歩き方…
「…ジョ、セフ?」
「………すまない」
そのままの体勢で僕が名前を呼ぶと、少し間があいてからジョセフの声が聞こえた。
あの日ディノの部屋に入ってから、1度も顔を合わせていなかった。
「…本当に、すまない…」
「……っ、辛い思いをしたのは僕じゃないよ…」
「ああ…わかっている」
「わかってないよ…」
「…いや、わかってる」