ヤマネコ-ノ-ツガイ【アッシュ】BANANAFISH
第14章 消えない傷
《ジョセフside》
「こ、こんなところにいたのか、ジョセフ!」
「…ああ、マーク。慌ててどうしたんだ」
「どうしたんだじゃない!パパがお前に急用の連絡をしたのに繋がらないと言っていたぞ!」
「俺に?」
俺はポケットの携帯を取り出し確認してみるが、着信はない。
「…電話などきていないぞ?」
「ああ、たまにここは電波が入らないことがあるからそのせいかもしれない…!それで俺の方に連絡があったんだ」
「そうか、それは知らなかった…すまない。折り返そう」
「ま、まて!…パパはもう電話を取れない場所にいるらしい、それで俺が伝言を預かっているんだ」
「電話を取れないって…今日そんな用事があったか?」
「急遽決まったそうだよ、アッシュも一緒なんだろ?…その、例の件で」
例の件、アレか…。
「ああ…それでパパはなんと?」
「前にジョセフが付き添った時にオーダーしたスーツがあっただろ、それに変更点があったらしくて…まぁ詳しくは店に行けばわかると言っていたよ」
「…あれはここから1時間以上掛かる店だぞ?」
「パパがお前にって言うんだから…俺に文句言うなよ」
「…はぁ…わかった、その代わり」
「な、なんだよ?」
「…この部屋に誰も入らないように見張っていてくれ」
「……わかった」
「では、頼む」
「あ、ちょっとまってくれ…!」
「なんだ」
「この部屋のロック番号…変わったって聞いたけど…」
「…なぜそれを?」
「いや、前にここを通った時にパパがそう言っていて…そんなことより…っほら、見張るだなんて何かあるかもしれないってことなんだろ?その時に部屋に入れなかったら困るじゃないか…番号を教えておいてくれよ」
まあ、確かにそうだ。それに部屋のロック番号なんていずれここに仕える者は皆知ることになる。
「0412だ」
「…OK」
「ああ…では」
俺はエレベーターに乗り、急いで建物から出た。
車のエンジンを掛けながら店への最短ルートを思い浮かべる。
…あのスーツはマシューも付き添って生地から刺繍、小物に至るまで全て特注したものだ。パパはとても気に入っていらしたはずなのにどこを変更するんだ…?
疑問に思いながらも、強くアクセルを踏み込む。
最初の信号を越えた先で早速渋滞に巻き込まれてしまった。
…長いドライブになりそうだ。