ヤマネコ-ノ-ツガイ【アッシュ】BANANAFISH
第14章 消えない傷
《アスランside》
「……さっき、笑ってたでしょ…」
「…なにがだ?」
「とぼけないでよ、僕気付いてたんだからね」
「ああ…悪い。相変わらずの仲良しっぷりだ、と思ってな」
「馬鹿にしてるの…?」
「いいや、全く。でも良かったじゃないか、…ユウコは誰のものにもなっていなかっただろう?」
「……そう、だけど」
「痕は消えたか?」
「っし、しらないよ!」
「…そうなのか?てっきり俺はユウコが眠っている間に毎晩確認しているのかと」
「するわけないだろっ…もう!ほら…やっぱり馬鹿にしてる」
「どうか変わらずにいてくれ」
「え?」
「この先、何が起こっても…このままお前たちには変わらずにいて欲しい」
「…どういうこと?」
「……いや、他意はない」
「………」
ジョセフの目は明らかに何かを隠していた。
「…ジョセフってさ、実は嘘をつくのが下手なの?」
「お前…最近生意気になってきたんじゃないか?」
「…大人になったんだよ」
「っふ…キスマークの付け方もしらないヤツは、まだまだガキさ」
…ちぇ
つい話をはぐらかされてしまった。
何が起こっても変わらずに…なんて当たり前だ。そもそも僕たちには“何が起こっても”どころじゃないことが散々起こってきた。きっともうこれ以上のことなんて起きっこない。
部屋に着いて、ジョセフがベルを鳴らすとドアが開いた。
「待っていたよ」
「…ジョセフ」
そう言って僕が振り返ると、ジョセフはあぁと頷いて去っていった。
僕が部屋を出ている間ユウコのことはジョセフにしか頼めない。…あぁ、早く帰りたい。
「お出かけ、しないの?」
「今とある案件の返信を待っていてね、確認後にすぐ折り返しをする関係でまだここを出られないのだよ…紅茶も用意した。ソファに座って待っていてくれ」
「…うん」
大丈夫、そう繰り返したのは自分に言い聞かせるためでもあった。
僕はもう一度心の中で大丈夫、と呟いた。