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ヤマネコ-ノ-ツガイ【アッシュ】BANANAFISH

第14章 消えない傷


『…!』

「……大丈夫だよ?」

私が一瞬ビクッと反応したことに気がついたのか、アスランは私の手を握ってニコッと笑った。


「…あぁ、悪い。また驚かせてしまったか」

入ってきたのはジョセフだった。

『ううん…アスランが一緒だから平気』

「っふ……そうか」

「もう出るの?」

「あぁ、パパが部屋に来るようにと」

「わかった」

今日アスランはパパとお出かけの予定だって言っていた。

「ユウコ、トイレ行っておく?」

『今日はお水あんまり飲んでないから』

「そっか、」

アスランはそう言って私のリードをベッドに繋いだ。

『…っ…あの、』
「大丈夫、早く帰ってくるよ」

『……!』

“早く帰ってきてね”

そう言おうとしたことがアスランに伝わったかのようだった。

「大丈夫…ドアの前にはジョセフがいてくれるし、怖いことは起きないから」

不安な気持ちももちろんあったけど、それよりもアスランが行ってしまうことが寂しい。

『…うん』

「……ねっ?」

『…アスラン、』

「なあに?」


『ギュッてして?』


アスランは少し驚いた顔をしてから目を細め、両手を広げた。

「…ギューッ!」

『っ…ふふ…くるしいよお!』


「ユウコ…行ってくるね?」

『うん、行ってらっしゃい』


バタン


『………』

私は閉まったドアから目が離せなかった。今日はどれくらいで帰ってくるのかな…お出かけってことは2時間…3時間?…アスランを待っている時間がパッて一瞬で過ぎ去ったら良いのに。


あの本のモールスも覚えちゃったし、

『…なにしてようかなあ…』



私がベッドにごろんと転がると、突然ドアを解除する音が聞こえた。


『え…ジョセフ?アスラン?』


ピッピッ…


ビー


音は聞こえるもののドアが開く気配はない。


ピッピッピッピッ


ビー


2度ほど聞き覚えのない音がして、それからピッピッという音は聞こえなくなった。



『…だれ?』


少し不安な気持ちになった。

…でもアスランが言ったように外にはジョセフがいてくれるんだから、大丈夫。



私はそう思って、読みなれたあの本にまた手を伸ばした。

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