ヤマネコ-ノ-ツガイ【アッシュ】BANANAFISH
第14章 消えない傷
『…いやっ!』
「わっ…あ…ユウコ?ごめん、起きちゃった…?」
『…はあ…は…あ…』
「…ユウコ?」
『……行か、ないで』
「大丈夫…どこにも行かないよ」
『…っあ…れ?』
触れる。
背を向けて行ってしまったアスランは消えていない。
「夢、見てたの…?」
『……わから、な』
どこからが夢でどこからが現実…?
私、何をしていたんだっけ…?
辺りを見回した。
「……クリス?」
『…っ』
その名前に体が勝手に反応する。
「…クリスの部屋から、僕が連れて帰ってきたんだ」
そうだった、私…首を絞められて…。
「だからここにクリスはいないよ…」
『……』
「……ごめんね、ユウコ」
『…どうして、謝るの?』
「…一緒にいたかったのかなって」
『私が……クリス、と?』
「…うん」
「……どうし、て?」
「だって…キミはクリスのことが好きなんでしょ…?」
『!……っわたしは』
アスランのことが
そう言いかけて口を塞ぐ。
ーー「僕にとってキミは…ただのペットだよ」
『…っ!!』
「どうか、した…?」
あれはアスランの言葉じゃない。
クリスが私に言った言葉だ。
そうだ、私は1週間前にクリスとダリウスの話を聞いて、
アッシュを奪わないでという言葉に、
可哀想なただのペットでいてという言葉に…頷いたんだった。
「……ユウコ、」
『…うん…?』
「…聞いてもいい?」
『な、なに?』
「ユウコはいつクリスのことを好きになったの?」
『…え?』
「ユウコはクリスのどこを好きになったの…?」
『…っ』
「あんなにひどいことをされても…まだ好きなの?」
『……』
「…どうして、何も答えてくれないの?」
だって…どれも真実じゃない…
するとアスランは、私の手にそっと触れた。
「僕ね、ユウコたちが初めて会った日のことを思い返してみたんだ。あの日感じた違和感を、もう一度ちゃんとよく思い出してみたんだ…」
アスランは疑ってる。
クリスの嘘を。
何故ついたのか私にも分からない、
私たちが恋人同士だという嘘を。