ヤマネコ-ノ-ツガイ【アッシュ】BANANAFISH
第14章 消えない傷
眠っていた…というよりは、深く深く水の中に潜っているような状態だった。誰かが何かを話しているのは分かるけど、具体的に何を言っているのかは分からなくて、ぼんやりとした広い海の中でずっと誰かを待っている…そんな感じ。
「優子」
声を掛けられて、振り返る。
『…お父さん、お母さん…?』
「ここにいたのか、探したよ」
「ずっとひとりにしてごめんね」
『どうしてお父さんとお母さんがここにいるの?』
「さぁ、日本に帰ろう」
「夕飯の買い物に行かなくちゃね」
『…日本に、帰る?』
「ああ、優子、行こう」
『ま、まって!…アスランが…』
「アスラン?…この子何を言ってるのかしら」
「小さい頃は想像の友達がいるとかいうだろ?」
『ちがうよ…っ…アスラン!どこ!?』
「…お父さんたちよりも、そのアスランが大事なのか?」
「せっかく会いに来たのにね…悲しいわ」
『だって…お父さんとお母さんは…もう…』
「優子が待っているのは俺たちじゃないみたいだ」
「そうね、一緒に行かないのなら仕方ないね」
『……お父さん、お母さん…っ!』
2人は背を向けてすぅっと消えてしまった。
蹲って私が泣いていると、後ろから私の大好きな優しい声が聞こえた。
「ユウコ」
『…アスラン!』
「ここにいたんだね、迎えに来たよ」
『今ね…お父さんとお母さんがきたの』
「見てたよ、キミとよく似てた…さあ、僕と行こう?」
『…どこに?』
「どこにいこうか?ふたりならきっと、どこでも楽しいよ」
『っ、うん!』
差し出された手を握ろうとすると、アスランの手が透けて触ることが出来ない。
『…あれ?アスラン…なんで…?』
「ああ…そうか。ユウコが待っているのは僕じゃないんだ」
『…え?』
「ユウコが待っているのは…クリス」
『……っ、ちが』
「違わないよ、キミはクリスの恋人なんだから」
『ち、がう…っ!私はアスランのことが…』
「僕にとってキミは…ただのペットだよ」
『っ!』
「この首輪は、その証」
『…ア、スラン』
「じゃあねユウコ、僕は行くから」
『ま…まって…アスラン……やだ…!』
「バイバイ、ユウコ」
『…いや、まって…アスラン…っ!』