ヤマネコ-ノ-ツガイ【アッシュ】BANANAFISH
第14章 消えない傷
《アスランside》
クリスに“キスマーク”のことを聞いてから、僕はずっと得体の知れないそれが怖かった。クリスの言った俺のものだという証…、本当にユウコがそうなってしまったような気がしてずっと不安だった。
…よかった。
ジョセフの話を聞いて、心の底からそう思った。
クリスに開けられたのか、外れたユウコのボタンに触れる。そして、心の中でごめんと謝ってシャツを少しめくる。
確かに初めて見た時よりもジョセフの言っていたように少し薄くなっていた。スルッと痕の上を指でなぞる。腫れた様子もないのに酷く赤いこの痕は一体どうやってつけられたんだろう…。
僕は意を決して、身を乗り出しユウコの肌に顔を近付ける。そしてクリスにつけられた痕の上に唇を触れさせた。
「…っ…」
顔を離して恐る恐るその場所を見るが、特に何の変化もない。それにホッとしたような、悔しいような複雑な気持ちになった。
僕はボタンを元に戻して、ユウコの首を見る。
「…ごめんね…嫌な予感はしてたのに、僕がクリスの前から離れたから…」
治りかけた傷もまた擦れて、削れるように血が滲んでいる。
…眠っているうちなら、痛くないかな。
ユウコの首輪を少しずらして、あの時のように舌を這わせる。ゆっくりゆっくり、痛くないように。
少し固まった血が溶けてじわっと口の中に広がる。
こんな首輪があるせいで…そう思うと胸が苦しい。
早く治って欲しい…傷もキスマークも早くその体から消え去って欲しい。
首の後ろの方をどうやって舐めるか考えながら体を一旦離した時、
『…いやっ!』
「わっ」
突然ユウコが声を上げ僕の首にぎゅっと抱きついてきた。
「あ…ユウコ?ごめん、起きちゃった…?」
『…はあ…は…あ…』
「…ユウコ?」
『……行か、ないで』
荒い呼吸を繰り返し、掠れた声でそう言いながらユウコは震えていた。
「大丈夫…どこにも行かないよ」
『…っあ…れ?』
「夢、見てたの…?」
『……わから、な』
ユウコは戸惑うようにキョロキョロと辺りを見回した。僕はユウコが誰を探しているのか分かってしまった気がした。
「……クリス?」
『…っ』
体をビクッと震わせて、ユウコは目を見開いた。