ヤマネコ-ノ-ツガイ【アッシュ】BANANAFISH
第14章 消えない傷
《アスランside》
「…あの…キ……ークって…」
「ん?悪い、聞こえなかった」
「キスマークって…ッ…つけられたらどうなっちゃうの…?」
「……は?」
「1度つけられたら、つけた人のものになっちゃう?」
「ちょっと待て…キスマークって…鬱血痕のことか?」
「うっけつ、こん?」
「…あぁいや。誰かにつけられたのか?」
「ううん…僕じゃない」
「……もしかして、クリスがユウコに?」
「…うん、ユウコの胸に赤い痛そうな痕があったのを見ちゃって…クリスに聞いたら自分のものだという証だって言われたんだ…」
「それでお前は、ユウコがクリスのものになってしまったのではないかと心配している…と?」
「……う、ん」
「っふ…」
「!…ど、どうして笑うの!?…僕は真剣に!」
「ああ悪い…アッシュ、お前の頭脳は子供なのか大人なのか…」
「どういう意味…?」
「いや悪かった…安心しろ。人はそんなに簡単に誰かの所有物になったりはしない。1、2週間もすればその赤い痕は綺麗に消えるさ」
「ほ、ほんとうに?」
「あぁ…見ろ。俺のここにも何もないだろ?」
ジョセフは自分の首をトンと指さした。
「…ない、けど…ジョセフも誰かにつけられたことがあるの?」
「20歳頃の話だ。…まあ若気の至りで、ある程度の年齢になれば誰でも経験する話だろう」
「つけられた時、痛かった?」
「見た目の割に特に痛みはない」
「そうなんだ…」
「だから、安心していい」
「っ…はあ……よかった…」
「アッシュ…お前は本当にユウコを愛しているんだな」
「えっ」
「…愛する人を守るために一生懸命で、お前は立派だよ」
「……そんなことないよ」
「まだ他に話すことはあるか?」
「…ううん、もう大丈夫」
「そうか」
「ジョセフ」
「なんだ?」
「……ありがとう」
「いや…構わない」
ジョセフは、ふっと口角を上げ背を向けて去っていった。