ヤマネコ-ノ-ツガイ【アッシュ】BANANAFISH
第5章 人は空を飛べるか
《アッシュside》
いてぇ…マジいてぇ…
下手クソな尋問に堕ちるほどヤワじゃねぇ…けど、俺だって痛みくらい普通に感じる。この傷が治りきるまでに、カサブタになる⇒むず痒くなる⇒掻きむしる⇒血が出る、を何度繰り返すことだろう。
痛めつけるだけ痛めつけて、どこに閉じ込められるのか…扉の前に連れてこられるとそれを勢いよく開けて中に放られる。
「アッシュ!」
「しっかりしろ、大丈夫か!?」
エイジに傷のある部分を掴まれる。
いてぇよ馬鹿…、ってかこいつらはここにいたのか。
目が自然と姿を探す。足を見つけ視線を上げるとユウコと目が合った。
「……無事かよ?」
そう言うと、1つ頷いて俺に近付くと正面に座った。傷の位置を確認しているようだ。1番大きな腕の傷を見据えたかと思うと、他の傷を触らないよう注意しながら身を乗り出して舐められる。こいつはずっと信じてる。…グリフの受け売りを。つい2ヶ月前に暴動が起きて酷い傷が出来たときも同じように舐められた。
生暖かいその感触が傷口を這う。先程エイジに触られた時とは比べ物にならないがやはり痛いものは痛い。腕の傷を舐め終え、首元についた傷を舐められた瞬間つい口に出てしまった。
口元を俺の血で汚しながら申し訳なさそうに謝るユウコが実にいじらしくて、冗談でその場を誤魔化そうとした。
「……首、敏感だから…っ、感じちゃうなァ」
すると、わざと舌先に力を込めて俺の傷口をえぐられた。
…いっってェよ!!!!
『感じちゃった?…私、上手?』
そんなふうに上目遣いで…間違いねぇ、お前は煽り上手だ。すっかり俺を挑発したユウコに
「…っバカヤロー。」
と言うがそこで俺は、自分が思っていたよりも色欲をそそられていたことに気付く。この唇に触れたい、重ねたい、深く深く…。俺は無意識にユウコの唇を親指でなぞっていた。
「…そうだ、唇も切れて血が出てるんだけど。」
一瞬目を丸くしたかと思うと、
『…っ…お望みなら舐めてあげもいいよ。』
と、まっすぐ目をみて言ってきた。そこで俺はハッとした。こいつはただの消毒のつもりだったのに、俺は何を考えていた?傷の上を這う生暖かい舌は欲の欠片もないとわかっているのに。
「………自分でやる。」
俺はバツが悪くなって、自分の唇をぺろりと舐めた。