ヤマネコ-ノ-ツガイ【アッシュ】BANANAFISH
第5章 人は空を飛べるか
《アッシュside》
『アスラン!見て、このお花綺麗だよ!』
「わあ、本当だね!真っ赤だ」
『パパにも見せてあげたいなあ、1本持って帰っ…痛いっ!!』
俺の野球を見にきていたユウコと練習後に、2人でグラウンドの外を歩いていた時のこと。いつもの公園には咲いていない真っ赤な花を見つけた俺たちは、それに興味津々だった。
ユウコの親父さんはその日都合が悪くて、俺の兄貴と顔を出していた。
ユウコはその花を親父さんにも見せたいと、一輪手折ろうとしたが…その茎にあるトゲに指を切る。
その花は薔薇だった。
ユウコの指からは血が出て、目には涙が浮かんでいる。俺は兄貴から前に聞いたある話を思い出す。
「ユウコ、手を貸して!」
そう言って俺は、スっと差し出されたユウコの血が出る指を咥えた。
『…アスラン?指おいしくないよ?』
「怪我をした時にはね、傷を舐めると早く治るんだって!だから僕がユウコの傷を早く治してあげる!」
幼いながらも、確実に恋心は呼吸を始めていた。でもこの時ばかりは照れや恥ずかしさもなく、ただ真剣に早くこの傷が治って欲しい…それだけを考えていた。
それ以来、ユウコは傷が出来ると舐めるようになった。
大人になった今
舐めて早く治るか、それはどっちとも言えないが…