ヤマネコ-ノ-ツガイ【アッシュ】BANANAFISH
第14章 消えない傷
《アスランside》
「……僕がユウコにとってどういう存在か、それは僕にはわからない…でも、僕にとってユウコはとても特別な存在なんだ!」
「……っ」
「とても…大切で、誰にも傷付けてほしくない!…たとえ、それが恋人のキミだったとしても」
恋人…自分で口にしておいて胸が苦しくなる。
「いつか僕はユウコに伝えたけど、ユウコを傷付けるのは…それがユウコ自身だったとしても許せない」
血と歯型だらけになったユウコの腕が頭をチラついた。
「…ユウコがキミといて幸せなら、その方が良いって思った。今すぐには無理でも、受け入れなくちゃって思ってた…でも、キミがユウコを傷付けるなら、僕は身を引けない!」
ユウコを抱き締める腕に力を込める。
「…キミが言ったように、僕はユウコがクリスの恋人になることを“どんなことをしてでも阻止”したいよ。
やっぱりユウコのことは、これからもずっと僕が守ってあげたい!」
クリスの肩が震えている。
「ッ!…そう、そっか…前からユウコを守りたいって言ってたもんね…っ…いいなぁユウコは…」
「……?」
「……“ぼく”だって、守って欲しかった」
クリスの声はとても悲しい声だった。
「クリス…?」
「…っふ、ふふ…あははは!!!!」
クリスは目から涙をボロボロと零しながら笑っている。
「…あ、の…」
「ふ、ふふ…精々守ってあげたらいいよ…あとで後悔しないようにさ…!」
「…え?」
「取り返しがつかなくなってから後悔したって…遅いんだから」
「…どういう」
「出てって」
「ク…リス」
「いいから出てって!!!」
腕の中のユウコを見ると、ぐったりしていて自分で立てる状態では無さそうだった。
僕は体勢を整え、ユウコの膝の裏に腕を入れて抱き上げた。
クリスと距離を取りながらドアに向かう。
なんとかドアを開けて、1歩踏み出そうとした時「アッシュ」と呼ばれる。僕が振り返ると、クリスは涙を流しながら笑みを浮かべていた。
その姿は狂気的で、どこか恐ろしかった。
「アッシュの特別で大切な人、
……守れるといいね?」
「…っ!?」
僕は勢いよくドアを閉めた。