ヤマネコ-ノ-ツガイ【アッシュ】BANANAFISH
第14章 消えない傷
…今頃アスランとクリスは何をしているんだろう。
1週間前にクリスの話を聞いたあの日から私はアスランとどう接したらいいのか少し分からなくなっていた。
あんな話を聞いて、クリスのあんな涙を見てしまったら頷くしかなかったのに、アスランの顔を見る度に心がギュッと締め付けられる。
私はさっき、行かないで欲しいと思ってしまった。
クリスのところに行かないでって…。
『……はぁ』
私はため息をつきながら、クリスに付けられた痕を撫でた。また新しく2つ……一瞬チクッとしたあとは何も感じないのに、シャツを脱ぐと一気に存在感が蘇る。
アスランとは何も無いってわかったはずなのにな…。
コンコンコン…
『!?』
その時、突然部屋をノックされた。
『…は、はい』
返事をしたはいいもののリードがあるし、私はドアには近付けない。しばらく耳をすまして様子を伺っていると、ロックを解除する音が聞こえた。
ガチャ
あ…この人
「やあ」
『………』
現れたのはこの前クリスと部屋に来た男の人だった。
「驚かせたね、俺はマーク。主にクリスの身の回りのことを任されている。アッシュやユウコにとってのジョセフといえば分かりやすいかな」
『…マーク?』
「あぁ。この前訪れた時にも思ったが、まさかここで女の子と話すことになるとはまだ信じられないよ」
『…あの』
「あっ、そうだった…クリスが部屋に来るように言ってる。アッシュもいるよ」
『………なんで?』
「さあ?詳しくは分からないが、ケーキや紅茶も用意してるから一緒にどうかってことじゃないかな。すぐに出られるかい?」
『あ…はい』
「じゃあ行こう」
『あっ!あの』
「ん?どうした?」
『ベッドから…リードを外してもらえますか?』
「っ…あ、あぁ、わかった」
マークは戸惑ったようにリードを外してくれた。
「…なんだか変な気分だな」
そう呟きながらリードを私に手渡して歩き出す。
すぐにクリスの部屋の前に着いて、ドアが開くのを待った。
私は不安だった。
なにを言われるんだろう…このドアの向こうで何が起きているんだろう…。
ガチャ
「ありがとう、マーク!…やあユウコ、いらっしゃい!」
リードをクイッと引かれて部屋の中に入ると、ドアが閉まった。