ヤマネコ-ノ-ツガイ【アッシュ】BANANAFISH
第5章 人は空を飛べるか
そして身を乗り出し腕の大きな傷に顔を近付け、ぺろぺろと舐める。アッシュはそれを当然のように受け入れ、時々痛みに顔を歪ませる。
次に首の傷口。
「……いって!」
『あ…ごめん、強かったね…』
「……首、敏感だから…っ、感じちゃうなァ」
痛みに顔を歪めながらもそんな冗談を抜かすものだから、舌先に力を入れ傷をひと舐めしてやる。
「ッッッ〜〜!!」
『感じちゃった?…私、上手?』
「…っバカヤロー。」
するとアッシュは突然、私の唇に親指をゆっくり滑らせ
「…そうだ、唇も切れて血が出てるんだけど。」
と言ってきた。その指の動きには覚えがあった。忘れるわけがない。私はそれを分かった上で、
『…っ…お望みなら舐めてあげもいいよ。』
「………自分でやる。」
アッシュはフッと私から目を逸らすと、ぺろりと舌を出して唇を舐める。その姿はとても扇情的で、私の行為にはただ傷を治したいという想いしかないにも関わらず、自分がひどく猥りがわしいことをしているように感じさせられた。
「エーチャン、顔真っ赤だぜ?ジャパニーズには刺激強いんじゃない?」
「…ここに住んでればあのジャパニーズみたいにこの刺激に慣れるってこと?…ってかあれであの2人本当に付き合ってないの!?」
「…Maybe…」
少々の罪悪感に苛まれていると、
「…あ?お前この腕の傷どうした?」
『縛られた縄を切る時に失敗しちゃって…』
「お前らしくないな、…ほら」
貸せ、と私の腕を掴む。
『さっき自分でやったよ?』
「いいから…」
私はアッシュの肩の傷を、
アッシュは私の腕の傷を、
互いに舐め合う。
そうだ、アッシュにはそんな邪な考えはない。彼はただ私の傷を治そうとしてくれているだけ。それだけなのに、私の心はえらく熱を持っていた。
その姿を見たエイジは
「…これが……山猫の、番」
と、ポツリと呟いた。
ーー彼には、2人がまるで傷を舐め合う野生のケモノのように見えていた。