ヤマネコ-ノ-ツガイ【アッシュ】BANANAFISH
第14章 消えない傷
《クリスside》
言え、
言ってしまえ。
この女に、思いの全てを…
この心に渦巻く黒いもの全てを吐き出してしまえ!
俺は息を吸った
「…っ………!」
おい何をしてるんだ…
言えよ、お前が憎いって。
お前はいやらしい匂いを撒き散らして男を誘惑する穢らわしい悪魔だって。
何度そう言葉を吐き出そうとしても、喉に詰まる。
「……っ…う…」
…あぁ、俺はなんて愚かなんだろう。
やっぱり俺は、こんな状況になってもダリウスが不利になるような言葉を言えない。
俺は…本当にどうしようもない馬鹿だ。
どうして…こんな、最低な女との幸せをも願ってしまうんだ。
…だって、ダリウスは
神に叛き愛を知らない俺に教えてくれた。
誰かを愛する喜びを、
誰かに愛される歓びを。
かけがえのない大切な想いをたくさんくれた。
あんな幸せな日々は一生訪れない。
ああ…ダリウス…、きっとこれで最後だ。
もう一生会えない。
いやだよ…離れたくない。
俺のダリウス……っ
「……クリス……やっぱり俺!」
その時、背中でダリウスが何かを言おうとした。
だめだ…それを言わせてはいけない気がする。
俺は変に勘が鋭いところがあった。
だから、ダリウスの言葉を遮るように最後の言葉を発した。
もういい、
もういいよ…ダリウス…
解放してあげる
ありのままの俺を見てくれて、
愛をくれて、
ありがとう
「……どうか、幸せに…
…あいしてたよ、“お兄ちゃん”」