ヤマネコ-ノ-ツガイ【アッシュ】BANANAFISH
第4章 遠い生まれ故郷より訪問者
《アッシュside》
「へええ…やっぱり…そうかあ」
映画やドラマの中の話を思い浮かべているように見えた。全く動揺しやがらない。やっぱり面白いヤツだ。そうだ、こういう平和なヤツは一生そのままでいろ。少し皮肉を込めてガキだな、と言ったのに、ユウコはやっぱり俺の脳内を読み透かしたように面白い人ね、と笑った。
視線を感じて目を向けると、イベと名乗った男がこちらを向いていた。話を聞かせろってんだろ?めんどくせぇ、そう思っているとスキップがエイジとユウコを誘った。ユウコを見ると許可を得るような目をしていて、こっち側に来られるのは避けたかったし…行けよ、と合図した。
カウンターに座るとイベは、ノートにいそいそと何かを書き込んでいる。しばらくした後緊張した面持ちで、好きな食べ物はなに?と聞いてきた。ふざけてんのか?そんなことを聞きに遥々ジャパンからやってきたってのかよ。俺がため息混じりに酒を煽っていると、
『…け、結婚!?!?』
と馬鹿でかい声が聞こえた。そのフロアにいたやつは全員何事かと声の主を見る。結婚?何の話してんだあいつは。そろそろと俺の顔を見たあいつに、ほぅ…なるほどと思った。そういうことなら…酒のグラスを少し高く上げてウィンクしてやる。ビクッと肩を揺らし、顔を逸らした。…結婚ね。俺が体をカウンター側に戻すとイベは先程とは違う視線をこちらに向けていた。すごい嫌な予感がする。
「あの…ユウコ…のことなんだけど彼女って…」
クソ、やっぱりな。
「…あ゛?」
思ったよりも低い声が出た。
「あっ…そのいやごめん、別の話にしよう」
さっきからこいつのアイムソーリーは何回聞いたんだ。
数えようと思ったが、会話を思い出せなくて断念する。
それからいくつか質問されたが、答えたくないものばかりだった。ストリートギャングの話、ボスになってからの話、…そして過去の話。俺が曖昧に返答していたら、観念したように、失礼…といってエイジの元へ向かう。
少しそっちのテーブルを眺めていたが、ポケットが震え着信を知らせた。ショーターだ。
「よぉ、ショーター…どうした?」
「《アッシュ!今すぐそこから逃げろ!オーサーだ!》」
なに!?
「《やつが昔の仲間を集めてお前をとっ捕まえに来るぞ!!》」