ヤマネコ-ノ-ツガイ【アッシュ】BANANAFISH
第14章 消えない傷
もうそろそろ建物の外というところで、止められる。
「ここで待ってろ、動くんじゃねえぞ。」
マービンは外に出て行って、車から降りてきたハットをかぶる品の良さそうな男の人と話しはじめた。
『…アスラン、あの人かな?』
「そう、なのかも…」
すると、マービンは中に入ってきた。
「あちらがお前らのご主人様だ。その顔とカラダを使って、ご機嫌を損ねないように気をつけるんだな…末永くたっぷりと可愛がってもらえ。」
私たちは一気に青ざめる。
「とくにユウコ。あのお方は女は好みじゃない。捨てられたくねえなら、従順なイイコになれよ。」
私は途端に体が震えだす。
もし捨てられてしまったら…私は…
「…ユウコ、」
アスランは私の手を握ってダイジョウブと言ってくれた。
マービンが私たちの後ろから肩に腕を回し、外で待つ男の人の元へ歩く。久しぶりに浴びた太陽は眩しくて目を刺すようだった。
「パパ・ディノ、」
「…おお!これは素晴らしい!…Mr.ガーベイ、期待以上だ。上物どころか特上じゃないか、とても私の好みだよ。…アッシュ、ユウコ、私のことはパパと呼びなさい」
『…っ…パ、パ』
「ああ、そうだよユウコ。…おや?」
私の震える手をアスランは強く握り、グッと近くに引き寄せた。
「アッシュ、心配しなくて大丈夫だよ。キミからユウコを取り上げたりしない。」
パパは私たちの頬に手を添えて顔を近付ける。
「実に美しいな。…今後キミたちがどう成長していくのかとても楽しみだよ。私に全てを見せてくれ、“生”も、“性”も。」
その時、通りに一台の車が通りがかった。
ブゥゥウウウン
そのエンジン音を聴いて、突如ここに来た時のことがフラッシュバックする。
『っ、きゃぁああ!!』
「…ユウコ?!大丈夫?!」
「パパ、ユウコは車の音に驚いただけですよ。」
「おぉ、そうか。それは可哀想に。怖い思いをしたね。」
そう言って抱き締められる。
ふわっといい香りがした。
『…パパ…?』
パパ、と口にしながら抱き締められると、懐かしいような悲しいような気持ちになった。
「よしよし、…では、行こう。」
運転手の人にドアを開けられ、パパは私たちとともに後部座席に乗り込んだ。