ヤマネコ-ノ-ツガイ【アッシュ】BANANAFISH
第14章 消えない傷
まぶたに温かさを感じ目を開けると、アスランは微笑みながら私を見ていた。まだ夢と覚醒の間でふにゃふにゃとしていて、アスランの胸に額をすり寄せる。
「あはは、くすぐったい…まだねむい?」
『…ん〜?』
「起きられる?」
グーッと伸びをすると、目が覚めた。
『んっ、おはよ』
「うん、おはよう。見て、いい天気!」
窓に目を向けると建物の隙間に朝日が差し込んでいた。
『ほんとだあ!』
「ここでの最後の朝だね。」
『そうだね』
私たちは置かれた服を手に取り着替える。色味は今までのと変わらないのに、腕を上げると突っ張るようなパリッとしたシャツだ。
服の下にはヘアブラシが置かれていた。
『あれ?ヘアブラシだ…!』
「ねえねえ、僕がユウコの髪を梳かしてもいい?」
『え、うん!いいの?ありがとう』
ここに来てから毎日シャワーを浴びられるようになったが髪を整えるのなんて、何年ぶりだろう。
「髪、伸びたね。」
『うん、もうずっと切ってなかったから』
「…ユウコの髪きれい。」
『えっ?』
私は思わず振り返る。
「だぁめ、まだ途中っ」
両頬を優しく挟まれ前を向かされる。
『……私ね、この髪嫌いなんだ』
「どうして?」
『…真っ黒だし、カラスみたいだし…アスランみたいな髪が良かったな』
「そんなことない!僕はユウコの髪好きだよ」
『…っ』
「…よし、おわり!…ってユウコどうしたの?」
耳まで熱い…。
アスランが嫌いだった髪を褒めてくれて、しかも好きとまで言ってくれた。
『…ありがとう』
「どういたしまして!」
『じゃなくて!そっちもありがとうなんだけど…私の髪のこと、アスランがその…好きって言ってくれてすごく嬉しい、ありがとう』
「…どういたしまして」
アスランは嬉しそうに微笑んで私の髪を一束持ち上げると、ちゅっとキスをした。
すると、廊下から足音が聞こえた。
ガチャガチャ
ギィ
「準備できてるか?…よし、行くぞ。」
私たちは顔を見合わせて、部屋を出た。
はじめて来た時は怖くて回りを見る余裕もなかったから、キョロキョロとしてしまう。
アスランが言ってたように廊下にはドアがいくつもあって…この中には…
「おい、こっちだよ」
私はハッとして、マービンの後に続く。