ヤマネコ-ノ-ツガイ【アッシュ】BANANAFISH
第4章 遠い生まれ故郷より訪問者
薄着で外を出歩けるくらいにちょうどいい気候になったある日。私たちはいつものたまり場にいた。
地下に続く階段を降りて、店の奥の扉を開けたところにあるビリヤード台で仲間たちが騒ぐのをカウンターの端に座って眺めている。
「ユウコ、飲むか?」
『ありがとう』
いつもと同じお酒を出されそれを飲んでいた。アッシュに初めて連れてこられた時にオススメだと頼んでくれた私好みのカクテルだ。
キューを持ち、球を突くアッシュの姿を見つめる。線の細い体なのに、しっかりと筋肉がついておまけにあの顔立ちだ。白の無地のTシャツにジーンズというシンプルな服装をスタイリッシュに着こなしている姿は流石としか言いようがない。
「あんまり見てると王子様に穴があくぜ?」
隣に座っていた、なじみの男に声をかけられる。
『…そんなんじゃないもん』
「へぇ〜、そうかよ」
ニヤニヤと笑われる。
ふと、自然に視線がアッシュを捉えると向こうもこちらを見ていた。アッシュは口の端を僅かに上げて小さく微笑むと、またビリヤード台に視線を移した。
『〜〜〜!』
私はクルッとアッシュに背を向けるように座り直すと、お酒をまた1口飲んだ。赤くなった顔を隠すようにテーブルに顔を突っ伏す。
「おや?穴が開くのはお姫様も同じって訳か」
『…穴が開くのはあなたの眉間かもよ』
「そんな綺麗なツラして怖いこと言うなよ、お前とアッシュが言うと洒落になんねぇ!」
ガハハと笑いながら隣の男は自分の眉間を隠す。
それから少しして、入口のドアが開いた。スキップが入ってくる。彼は私たちの仲間だ。
『Hi!スキップ』
「Hi!ユウコ!アッシュは?」
私はスっとアッシュに視線を向けると、サンキューと言って彼の方に向かった。
「アッシュ!」
「よお、スキップ」
ふとドアに目を向けると、黒髪の2人が目に入った。黒髪?あの瞳の色、顔立ちは…まさか。少し中の方までやってきた2人。
「(あ、あれがアッシュか?)」
「(なんか…考えてたのとだいぶイメージが違う…)」
「(ああ、俺も。もっとごっついオッサンみたいなやつかと思ってた…)」
間違いない、聞き取れる。
彼らは日本人だ。