ヤマネコ-ノ-ツガイ【アッシュ】BANANAFISH
第13章 地獄の中へ
《アスランside》
「…ユウコ」
正面からユウコの右手を左手で握る。
その様子を見ていたマービンがニヤニヤと言った。
「お前らの動画やグラビアはかなり好調で、小出しにしてるおかげで市場価値も高いままファンが増えてるそうだ。…フッ、ちなみにお前らのそういう“ナカヨシ”なところが評判良いらしい。…高い金で見てもらってるんだから悦ばせてやらなきゃいけねえよなァ?」
マービンの視線に耐えかねたユウコは、僕の胸に体を寄せてきた。
ドッドッ
僕の心臓が痛いくらいに動いている。
最近の僕は前よりもユウコの行動や仕草、表情のひとつひとつに心を乱されるようになっていた。
名前を呼ぶと、胸に押し付けていた顔を上げた。
「……っ!」
紅くなった頬、唇をキュッと噛んで潤んだ目で見つめられる。
僕が1番弱い表情だ。
小さい頃から一緒にいて、ユウコのことはずっと好きだったけど…昔とは違う。
それを感じたのは二度目にベンチでキスをしたとき。
ユウコとヒューゴの顔が近付いたのを見て、僕はひどく嫉妬した。はじめての感情だった。
だから、自分でも気持ちが抑えられなくて「キスして」だなんて言ってしまったわけだけど…。
その後に逆にユウコが「キスして」と言ってきたとき、この目をしていた。
それを見て今まで感じたことがないくらいに、全身の血がブワッと騒ぎ始めた。
愛おしくて、大切にしたい。
じわっと、苦しい…
痛みにも似た甘い複雑な感覚。
僕はユウコの唇を親指で撫でた。
…キス、ってなに?
ここに来てから、マービンやフロッギーたちに何度もされて嫌悪感しかない行為になった。
…でもユウコの唇には触れたいと思う。
7歳のあの日までは、キスは好きな人同士がするものだと思っていた。でもそれはどうやら違った。あいつは嫌がる僕に何度もキスをしてきたし、マービンたちもそうだ。顔を背けようとすると笑いながら押さえつけて、当たり前のように舌を捩じ込んでくる。
命令されてユウコにキスをする時、彼女はいつも全身に力を入れてとても苦しそうにする。だから唇を合わせる前に「ごめんね」と言う癖がついていた。
僕はいつしか、キスをしたいと思うのはいけないこと…そう思うようになった。