ヤマネコ-ノ-ツガイ【アッシュ】BANANAFISH
第13章 地獄の中へ
次の日、
「こいつ単体のムービーはいくつあっても金になるが、ペアのは数を出すと市場が下がる」
鍵を開けて入ってきた男はそう言い放ち、アスランのことだけを連れていった。
昨日の夜、シャワー室を出てきたアスランはいつも通りの表情を私に向けた。
そんな彼に、目が赤くなっていることはどうしても触れられなかった。
相変わらず食欲がなかったので、全部食べていいよと言うとまた断られる。
一度残したらもう二度と食事をもらえなくなるかもしれないよと彼が言うので一生懸命飲み込んだ。
その後ベッドに入り、早々に私をギュッと抱き締めるとおやすみと言って黙ってしまった。
アスランと呼びかけても、もう眠いからと答えられる。
それはまるで、もう私には何も言わせないという態度に思えた。
私は外が明るくなるまで寝付けず、トクン…トクン…と動く彼の鼓動をずっと聞いていた。
ウロウロと部屋を動きまわり、何度もドアに耳を近付けるが何も聞こえない。
アスランが今もひとりで苦しみに耐えているのだと思うと、辛くてじっとしていられなくなる。
どうしてアスランだけが苦しむの…
彼と同じ痛みなら喜んで受けられる。
彼のために何も出来ない自分が悔しくて、唇を強く噛み締める。
するとじわっと血が流れる
『…いっ』
でもアスランはもっと強い痛みを受けてる。
こんなもんじゃない、
もっと、もっと…!!
私は自分の腕に強く噛み付いた。
痛くて涙が溢れるが、
アスランの痛みを思うと噛む力が強くなる。
「…ッ……っう…」
気がつくと、両腕には何ヶ所も歯型と傷ができていて口の周りは血で汚れていた。
痛い…けどアスランはもっと痛いんだ…
こんな痛みじゃないはずだ…
荒い息でバタンとベッドに倒れ込む。
やり場のない複雑な気持ちに頭の中がグラングランと揺れる。
徐々に目の前がチカチカとしてきて、ついに意識を手放した。