ヤマネコ-ノ-ツガイ【アッシュ】BANANAFISH
第3章 最悪の目覚め
《アッシュside》
「正解、…夢の世界からおかえり。ネムリヒメ?」
ユウコの目の端に今も滲む涙を指で掬う。
見て見ぬふりをしてあげたいのに、一刻も早くその顔から悲しみの結晶を取り除いてやりたかった。
まだ寝惚けているのか、ボゥっとした目で俺の顔をじっと見ている。俺はバツが悪くなってソファに座った。
『…また昔の夢を見てた』
俺と同じだ。俺も見たよ、今とても苦しい。
もしかしてお前は…夢の中の俺に酷いことをされたのか?それで泣いていたのか?
どっちの夢かと問う俺の声は思っていたよりも震えていた。
何故…俺はあんなに酷いことをしておきながら、まだお前に許されたいと願ってしまうのだろう。
不意に名前を呼ばれ、『抱き締めて』と。
お前はどんな気持ちで…この俺に、この腕に抱き締めて欲しいだなんて言うんだ。俺は今どんな顔をしているだろうか。俺は普段、必要最低限しかユウコに触れない。これ以上報われることを許されない想いを募らせるのは苦しいし、もう二度と傷付けたくない。
「今日だけ特別だぜ?…ほら、こいよ」
それでも触れていたいと俺の全てがユウコを欲する。お前をこの腕で掻き抱いて、離したくない。
今日だけだから…今だけ、だから。そう自分に強く言い聞かせる。そしてベッドから出て俺の腕の中に真っ直ぐ飛び込んでくるユウコを強く抱き締めた。
『アッシュ…ほんとに大きくなった』
俺の腕の中に収まったユウコは、あたたかくて 揺れる黒髪からは甘い香りがした。心臓が騒いでうるさい。そんな自分を悟られたくなくて、
「…かっこよくなった?」
とふざけたことを言ってみた。自分でツッコミたくなる。お前は世界で1番カッコワルイ男だよ、と
ユウコは腕の中で小さく震えた
『い、言わない!』
あぁ、言わないでくれ、分かってる。俺は好きな女の心に一生残る傷をつけた最低な男だ。
ふと、指通りの良い美しい黒髪を無意識で触っていた事に気付く。…髪、伸びたな。
『…綺麗になった?』
少し挑発するような目をしたユウコがそう言う。
なった、だって?
いや、お前は
いつどんな時だって、
そう初めて出会った時から、
「あぁ、お前は昔からずっと綺麗だよ」