ヤマネコ-ノ-ツガイ【アッシュ】BANANAFISH
第3章 最悪の目覚め
《アッシュside》
スっと開いた黒い濡れた瞳は俺を見ていた。
『…アスラン、』
震える声でそう呼ばれた時、体の血がブワッと沸き上がるのを感じた。それを誤魔化すようにおどけた声が出る。
「……ハッ、やだなぁ、寝惚けてるの?俺はアッシュ・リンクス、17歳。で、お前は?」
『……ユウコ・リンクス、17歳…』
リンクスは通称。
つまり、ヤマネコだ。
俺たちには同じ通称が付いた。
ヤマネコのアッシュ
ヤマネコのユウコ
いつしかそんな俺たちは、
《山猫の番》
と呼ばれるようになった。
番とは…
1、二つのものが組み合わさって一組みになること。また、そのもの。対。
2、動物の雄と雌の一組み。また、夫婦。
誰が呼び始めたか知らないが、上手い呼び名見つけやがったなと思った。初めてそう呼ばれていることを知った時あいつは番の意味を知らず辞書で調べ顔を赤くした。
俺たちは俗に言うカップルでもなければ、夫婦でもない。男女が共に過ごせばセックスの1つでもと思われるかもしれないが、俺にはもうあいつを抱く権利なんてない。愛を伝えるなんて…もってのほかだ。
俺は何度も何度もあいつの心を、体を傷付けた。
あいつは共に過ごすことすら本当は嫌なはずなんだ、顔を見たくないといつ拒絶されてもおかしくないことをしてきた。
ーーその行為のひとつひとつが俺の本意ではなかったとしても。