ヤマネコ-ノ-ツガイ【アッシュ】BANANAFISH
第13章 地獄の中へ
バタンッ
「ユウコっ!?」
『…っ!…っあ…ぅ…』
音のする方を振り返ると、アスランが慌てた様子でこちらを見ていた。
「…あ、ごめっ」
裸の私を見てバッと顔をそらすとドアを閉めようとした。
『…まって、』
自分が裸だということは分かっているのに、今は見られたくないとか恥ずかしいとかそういうことは浮かばなかった。
『…置いていかないで…ひとりにしないで』
お母さんに対してなのか、
アスランに対してなのか…
よくわからなかった。
「ユウコ…、」
アスランは置かれていたバスタオルを手に取ると、極力私を見ないように近付いてきた。
キュッとシャワーを止めると、私にバスタオルを巻いてくれる。
そして目線を合わせて私の涙を拭うと
「ここにいるよ、ひとりになんてしない。…だからユウコ、泣かないで。」
その言葉を聞いたら、心がスっと楽になってザワザワしていた気持ちが落ち着いてきた。
『…っ……』
「…濡れたままだと風邪引いちゃうよ、体拭いて服を着よう…あ、僕が拭いてあげようか?」
『だ、いじょぶ』
「うん、じゃあユウコ早く拭いて?」
『………あ、あの、』
「はは、ユウコがひとりにしないでって言ったのに!…なんて冗談。僕、戻ってるからね」
アスランはクルッと背を向ける。
私はたまらなくなってその背中に抱き着いた。
「っわ、…っユウコ?」
『…アスラン、ありがとう。』
アスランはお腹に回る私の手をスルッと撫でて、シャワー室を出ていった。
バタンとドアが閉まった途端、今さらながらに恥ずかしくなる。
最近の私はアスランのことになると、自分でもよく分からない感情でいっぱいになってしまう。
初めての気持ちもたくさん感じてきた。
どうして急にこんなふうになってしまったのか、と不思議で仕方なかった。
でも理由が今日ハッキリと分かった。
私は心も体も大人になりはじめているんだ、と。