ヤマネコ-ノ-ツガイ【アッシュ】BANANAFISH
第13章 地獄の中へ
しばらくしてアスランは白い服に身を包んで、部屋に戻ってきた。
『あっ……』
「…………」
目が合って話しかけようとしたら、フイッとそらされてしまう。
『わ、私も入ってくる!…ごはん、食べてて良いから!』
服を持って逃げるようにシャワー室にきた。
アスランから目をそらされるなんて、
もしかして嫌われたんじゃ…
じわっと目に涙が浮かぶが、シャワーで流す。
…今泣いてる場合じゃない。
アスランは私が泣くと、「泣かないで」と涙を拭ってくれる。
今日も何度もそう言われてしまった。
泡を立てると両手首に出来た傷がしみて痛かった。
血が固まっていたが流すとそれがとけて生々しい傷が現われた。
『…ったた、』
考えてみれば、久しぶりに裸になって体を洗った気がする。そのままスっと自分の体に目をやると、違和感を感じた。
『あれ…?』
ほんのわずかに胸が膨らんでいた。
そういえば、最近胸がチクチクしたり、何かに当たった時痛みを感じるようになっていた。
体が大人になりはじめているということなのかな…?
『…ど、うしよう。』
何故か、えも言われぬ不安でいっぱいになる。
何が不安なのかは分からないけど、何かが怖い。
大人の女の人は胸に膨らみがあって当然だとは思っていたけど、イコール自分もそうなるという認識がなかった。
『……お母さん…』
自然と口をついて出てきた言葉にビックリする。
お母さん、だなんてどれぐらいぶりに口にしたのだろう。
もうハッキリと顔も思い出せないが、いつも笑顔で優しくて大好きだった本当の母。
どうして、今なの?
こんな時にどうして…、
段々視界がゆらゆらとしてきて、頭からシャワーを被っているのに頬を熱い涙が伝った。
『お母さん…』
『…っ、おかあ、さん…お母さん…っ』
『…っぐ、おがあさん!…っ』
いつの間にか声を上げて泣いていた。