ヤマネコ-ノ-ツガイ【アッシュ】BANANAFISH
第13章 地獄の中へ
《アスランside》
シャワー室に入ると、石鹸やシャンプーなど必要なものは用意されていた。
ケープコッドを出てから、こうしてまともにシャワーを浴びる機会なんてほとんどなかった。
石鹸を買って、水場で髪や顔を洗ったりはしたけど裸で全身を流すなんて久しぶりだ。
それなのに胸がギュッとなる。
…ユウコに全部見られてしまった。
裸どころか、
レイプされるところも
…アイツの液体が出てくるところも。
ユウコには絶対に見られたくなかったのに。
抵抗しなければ、と思っても体は震えて動かなかった。
あの頃と何も変わっていない自分に心底腹が立つ。
ユウコを守りたい、
それはもちろんあった。
ユウコに同じ思いをさせることなんて考えられない。
でも、あの場にユウコがいなかったとして…僕はアイツを蹴り飛ばせたのか?嫌だと叫んで暴れることは出来たのか?
…答えはNoだ。
ただひたすらに怖かった。
痛くて苦しくて仕方がないのに、
結局力にねじ伏せられてしまう。
早く終われ、と祈ることしか出来なくなる。
それに命令されたとは言え、ああいう形でユウコにキスなんて絶対にしたくなかった…。
ユウコは無理やりあんなキスをされて傷付いたはずだ。
…でもなにより許せなかったのは、ユウコとのあのキスで忘我してしまった自分自身だった。
「ごめん」と謝り触れた唇はやわらかくて…驚いてきつく閉じた唇も愛おしく感じた。
教えられたばかりのキスは、二度交わしたものとは全てが違って、舌を絡める頃には止められなくなった。
“もっともっと”と求めてしまった。
「…はぁ」
思い返すといたたまれない気持ちになる。
なんてことをしてしまったんだろう。
その時、ふっと頭にあの男の言葉が蘇る。
……「あと数年もすりゃユウコもこいつに同じことをされるだろうぜ…これがオスの本能だからな」
あんなに痛くて苦しいことを、僕がユウコに?
なんだよそれ…
そんな酷いこと、誰がするもんか!
でも、あのキスをした時の僕は…。
あれがオスの本能だと言うの…?
途端に自分が怖くなる。
ユウコを守りたい、と言っているくせに…彼女を傷付けたのはこの僕だ。