ヤマネコ-ノ-ツガイ【アッシュ】BANANAFISH
第13章 地獄の中へ
ガチャガチャ
ドアの方から鍵が開く音がして、視線を向ける。
ギィ…とドアを開け先ほどの男が入ってきた。
その瞬間私たちの体はガタガタと震えはじめた。
「…シャワーを浴びろと言ったはずだが?……フン、まあいい、…風呂入ったらこれを着ろよ、メシはこれを分けろ。他のヤツらは毎日食えねえんだからありがたく食え。……慰め合うのもいいが明日のために早く休むこったな。」
ガチャガチャ
男は部屋から去っていった。
私たち、これからどうなっちゃうんだろう…
そうアスランに言おうとして、やめる。
アスランも知るわけないし、考えるのが怖かった。
アスランはゆっくりと立ち上がり、用意された白い服を持って扉の向こうへ消えた。
少しするとシャワーの流れる音が聞こえ始める。
私は座り込んだまま動けなかった。
目の前で起こった非現実的な出来事は、紛れもない現実でアスランの心と体は再び深く傷つくことになってしまった。
それに比べて私は、布が擦れて血が出た手首と切れた唇の傷くらいしかない。
唇…、
『…ぁ、』
顔が真っ赤になっていくのがわかった。
指で唇を触る。
ここをアスランは…
『た…食べられちゃうかと思った…。』
酸素が吸えなくて苦しかったけど、全然嫌じゃなかった。むしろ…、嬉しかった。
アスランは苦しんでたのに、こんなことを考えてるなんて私最低だ…。
でも、私を見つめた初めて見る瞳を思い出してしまう。
『〜〜〜っ!!』
頭をブンブンと振る。
アスランはいつも私を守ってくれた。
私もアスランを守りたいのに、
…私が弱いせいでアスランばかりが傷付いた。
もうこんなのは嫌。
アスランばかりが体にも心にもケガしていくのは見たくない。
私にだって出来ることがあるはずなんだ。
今度こそ私がアスランを守ってあげる。
私はシャワーの音がする方をただ眺めていた。