ヤマネコ-ノ-ツガイ【アッシュ】BANANAFISH
第12章 遥かなる旅路
洋服を近くのフェンスに干し終えて、いつものスペースに戻る。
そろそろ靴磨きに出かける時間になったので、必要なものを持って出掛けた。
最近は、時々二手に別れて仕事をすることもあったのでひとりで靴磨きをすることには慣れていたが隣にアスランがいないのは、やはり少し寂しい。
「よろしく頼むよ。」
『はい!』
最初のお客さんがきて、仕事が始まった。
今日も順調だ。
この分ならまた2人でホットドッグを食べられるかもしれない。
お金をたくさんもらえた時には2人であのホットドッグを食べに行っていた。
ぼんやりそんなことを考えていると、
「やあ、お願い出来るかな?」
今までに何度か声を掛けてくれた恰幅のいい男の人がいた。
『はい!』
私はいつも通り丁寧に靴を磨きあげる。
するとその男はあらゆるポケットに手をやり探ると申し訳なさそうにこう言った。
「ああ、悪いね。財布を車に置いてきてしまったよ。すぐ近くだからキミも一緒に来てくれないか?ほら、逃げると思われたら嫌だから。」
『あ、わかりました。』
私はすぐ戻るしいいか、と靴磨きのタオルや道具を置いたまま立ち上がり着いていく。
そこには確かに車があった。
「ここだよ、いやそれにしても今日は暑いな。キミもすごい汗だよ。エアコンを付けてあげるから少し涼んで行くといい。」
後部座席を開けて、トンと背中を押される。
確かに汗をかいていたので、少しならと乗り込んだ。
ガチャ
『え?』
男は運転席へ移動したかと思うと、ロックを掛けた。
そしてすぐにエンジンをかけると、発車してしまう。
『…えっ…あの…!』
流れる景色を横目に私は焦って男に話しかける。
「…ふははは!…お嬢ちゃん、知らない人の車に簡単に乗っちゃうなんて悪い子だな!」
『あの、…っ、おろ、降ろしてください!!』
運転席へ身を乗り出すと、肩を乱暴に押されてシートに戻される。
「黙れ!大人しくしてろ!!イイとこに連れてってやるからよォ!」
『…ど、どうしよう、アス、ラン…』
全身がガタガタと震える。
うわ言のようにアスランの名前を呼び続けた。
そんな私をミラー越しに見ると、男はニヤリと笑った。