ヤマネコ-ノ-ツガイ【アッシュ】BANANAFISH
第12章 遥かなる旅路
アスランが夜中仕事に出ていることを知ってから、6日が過ぎた。
あと一週間と聞いてから6日が経ったので、今夜で最後ということになる。
あれからアスランは仕事に出る前に「起こしてごめんね」と言いながら必ず声をかけてくれた。
彼が1人で働く理由はわからないけれど、行ってらっしゃいと言ってあげられることが嬉しかった。
「…ユウコ、起こしてごめんね?これも今日で最後だ、じゃあ行ってきます。」
『アスラン…』
私を見下ろす彼の首に腕を回し引き寄せた。
「…ぅわっ!」
アスランは咄嗟に私の顔の両横に手を着いた。
耳元で
『行ってらっしゃい』
と言うと、
アスランは額同士をくっつけた。
まるでキスをしたあとのような距離感に、寝起きでぼんやりしていた私の心臓は一気に動き始める。
心臓さえもアスランが好きだ、と叫んでいるようだ。
「ふふ…行きたくなくなっちゃうじゃない…」
『…行かないでって言ったら?』
「きみはずるいなあ…でも今日が最後なんだ。待っていてくれる?」
『うん、待ってる…』
「ありがとう、いってきます。」
アスランはいつものように私の頬にキスを落として、数秒見つめると立ち上がりひらっと手を振って走っていった。
私は手のひらで顔を覆う。
どうしよう…このままじゃ、
アスランに私が好きだってバレちゃう…
顔の熱が冷たい手のひらに移っていく。
ただの幼なじみの私にそんな好意を寄せられたってきっと困るに決まってる。
アスランが最近やんわりハンナを拒んでいるのは、彼女の好意を認識したからだ。
もし私がアスランに抱き着いて、彼の腕が背中に回らなかったら…
そう考えるだけでとても怖かった。
それでも先程の額の熱を、頬のキスを思い出すと胸がギュッと締め付けられる。
一秒ごとにどんどん好きが深まっていく。
手のひらを下にずらし口元を覆う。
『…好き、アスラン…大好き。』
誰にも聞かれない。
誰にも知られない。
だけど…
その手の中で篭もった想いは、
私の心にさらに熱を与えていた。