ヤマネコ-ノ-ツガイ【アッシュ】BANANAFISH
第12章 遥かなる旅路
次に目を覚ますとアスランは隣で眠っていた。
『おかえり、アスラン』
まだ起きるには少し早い時間だったので、触れずに声を掛けた。
ふと視線を感じ目を向けると、そこにはハンナが立っていた。
手でチョイチョイと呼ばれ、私は音を立てないように起き上がりハンナの元へ行くと、話があるからついてこいと言われた。
そこはほんの角の先で、覗けば眠るアスランの姿が確認できる位置だった。
『…話って?』
「私、アッシュのことが大好き。」
『あ……うん』
「とっても優しいし」
『…うん』
「とってもカッコイイし」
『うん』
「ユウコは?どこが好きなの?」
『え…』
「好きな人の好きなところが言えないなんてありえないでしょ?」
『あ…えっと…』
私はアスランのことを考える。
初めて出会ったときからいろんな彼を見てきた。
英語が全く話せない私に必死に自己紹介をしてくれた…
それから英語に慣れるために歌や物語をたくさん教えてくれたし、素敵な景色の場所に連れて行ってくれた。
ケガをした時には早く治す方法を教えてくれて、死んだ両親のことも嫌な顔せずに手を握って話を聞いてくれた。
誕生日にはお花を持ってきてくれて、一緒にケーキを食べた。
…そして人生最大のピンチには、自分を盾に守ってくれた。
最悪だったはずのファーストキスは私にとって最高の思い出に塗り替えてくれた。
彼のどこが好きって……
もうそれは嘘偽りなく全部だ。
彼を彩る全てのものが大好きだ。
『…I love everything about him.』
私は、彼の全てが大好き。
そうハンナの目を見て言うと、彼女はグッと唇を噛んだ。
「中途半端なこと言ってくれたら、良かったのに…」
『ハンナ…』
「そしたら絶対に諦めないって思えたのに…」
『………』
「…でも、アッシュのことあと1週間は諦めない。」
『1週間?』
「…あと1週間はユウコが知らないアッシュの秘密、私は知ってるから。」
『あ…』
きっとあの話だ。
「こんな話、ユウコが知らないってこと以外全く興味無いけど…今はそれだけがユウコが知らないアッシュだから…」
そう言って俯くハンナの横顔はとても綺麗だった。