ヤマネコ-ノ-ツガイ【アッシュ】BANANAFISH
第12章 遥かなる旅路
『嫉妬…?』
「そうだよ。ユウコの髪にいやらしく触れて、顔もすっごい近くて…僕おかしくなりそうだった。……あんなに簡単に触らせないでよ…」
『ご、ごめん…、』
私は理由はわからないが瞬発的に謝った。
「悪いと思ってるならさ…、僕にキスしてよ」
『…っ!……キ、キス?』
「僕ヒューゴとしちゃったから、このままじゃ嫌だな…。」
顔に熱を持っているのがわかる。
まるで全身が心臓になったかのように、鼓動が大きく感じた。
アスランとのキスは2年前、あれ以来はしていない。
でもその時とは何もかもが違う、私たちは心も体も少しずつ成長していてあの時の恋心とは比べ物にならない。
それにあの時はアスランが辛いファーストキスを上書きしてくれた。
私はアスランとのキスがとても嬉しかったけど、彼にはただそれだけのことだったに違いない。
ーーなぜアスランはキスをしてなんて言うの?
もはやそんなことはどうでも良くなっていて…
『……わかった。』
私はそう答えていた。
「…え?」
『キス、してあげる。』
「や…あの…、」
『アスラン?』
「ユウコ、だめだよ…そんな簡単にキスするなんて言っちゃ、」
アスランがしてって言ったくせに…
それに簡単じゃない、
キスしてあげるなんて、簡単に言うわけない。
誰でもいいわけじゃない。
『…アスランとだから…したいんだよ?』
「…え、ユウコ?」
驚いてアスランはこちらを見た。
私もハンナに嫉妬してた。
アスランは昔から女の子にモテモテだったけど、ここまで好意を隠すことなく素直に表現できる女の子に会うのは初めてだった。
仕事だということはわかったけど夜中にふたりで出掛けて、腕を組んだ姿はとてもお似合いで…。
生まれてはじめての嫉妬は、冷静さと幼い理性を壊した。
『アスラン…っ、私…キス、したい。』
アスランの服を掴んだ途端、何故か涙が溢れた。
戸惑う目を向けるアスランに顔を少し近づける。
『お願い、アスラン……キス、して?』
大きな目を見開いたアスランは、一瞬で真面目な顔をして射抜くような視線を向けた。
それは、まもなく10歳の少年とは思えないくらい大人びていて、動物が獲物を狙うようなギラッとした目をしていた。