ヤマネコ-ノ-ツガイ【アッシュ】BANANAFISH
第12章 遥かなる旅路
昨日近くで靴磨きをはじめたあの少年はいなかった。
時折キョロキョロとあたりを見渡す私に、
「そんなにその子が気になるの?」
とアスランは少し不機嫌そうだった。
今日もたくさんの人が声を掛けてくれた。
夕方、少し早めに切り上げて帰ることになった。
「今日も疲れたね~…」
『うん、たくさん来てくれたもんね!』
公園内に入り小屋の近くに来たところで、アスランは足を止めた。
『アスラン?どうしたの?』
「………まって、なんかおかしい。」
『おかしいってなにが?』
「…小屋に誰かいる。」
『えっ!?』
小屋を見るがとくに変わりないように見える。
「ユウコ、ここで待ってて?」
そう言うとアスランは鋭い目をして小屋に歩き始める。
『だめ!危ないならアスランも行かないで!』
ギュッと腕を掴む。
アスランは私の手の上に自分の手を重ねて優しい顔になった。
「そうだね、わかった。」
近くにあった少し大きめの石を拾ったかと思うと、思い切り小屋のドアに投げつけた。
『?!』
すると、小屋の中からドタバタと音が聞こえドアが開いた。
「なんだ!誰だ!?」
中から出てきたのは4人の同い年くらいの男の子たちだった。
『あっ』
「…っ!」
その中には昨日私たちを睨みつけて去っていった男の子がいた。
「ユウコ、もしかして…」
『うん、昨日の子がいる。』
アスランはハァとため息をつく。
「そこ、僕たちがずっと使っていたんだけど…なんの用事?」
「聞いたぜ、おまえら汚いことして稼いでるんだって?」
心臓が嫌な音をたてた。
まさかあの出来事を知られているの…?
アスランは私の様子に気付いて、私だけに見えるように一瞬口角を上げた。
「…汚いことってなに?僕らはきみたちと同じようにただ靴を磨いているだけだよ。」
「う、嘘だ!こいつら靴を磨く時絶対なんか特別なことしてるんだ!」
『あなたは近くで見てたじゃない!私たちは特別なことなんて何もしてない!』
アスランはゆっくりと彼らに近づく。