ヤマネコ-ノ-ツガイ【アッシュ】BANANAFISH
第12章 遥かなる旅路
「…ああ、なるほど…そういうことか。」
アスランは一瞬体を起こしてドアの方を見つめた。
『アスラン?』
「ううん!…でも、きっとお金をたくさんもらえたのは僕たちの靴磨きの腕が良かったからだよ!僕たちが頑張ってるから、それしかないでしょ?」
その通りだ。
靴を磨いた代償にお金をもらう。
私たちにはそれが全てだ。
『そう、…だ……よね』
答えが見つかった途端、瞼が落ちてきた。
その日も1日靴を磨き続けて、疲れていた。
「…ふふ、ユウコかわいい。何があっても僕が守ってあげるからね…おやすみ。」
睡魔に思考がもっていかれて、アスランが優しい声で話したのはわかったけど何を言ったのかはわからなかった。体にギュッと暖かい温度を感じる頃には完全に寝落ちていた。
『ん……、ん?』
眠りから覚めて目を開けると、とても近い距離でアスランが私を見ていた。
わっ…!と体を起こそうとするが背中にギュッと腕を回されていて動けなかった。
とにかく目をそらしたくてアスランの胸に赤くなった顔を押し付ける。
漠然とした恋愛感情はずっとあったが、最近のアスランは前とどこか違くて、私は胸がドキドキしたり恥ずかしさを感じることが多くなっていた。
ずっとこんな体勢で寝てたのかな…
アスランいつから起きてたの…?
「…ユウコ?どうしたの?おはよう。」
『ア、アスラン…いつ起きたの?』
「ユウコが起きる少し前かな。まだ眠い?もう少し寝る?」
『…お、起きるっ!顔洗ってくる!』
私はアスランの胸を手で押し、体の間に距離を作るとベッドを出て湖に走った。
な、なんで?
なんでアスランは平気な顔してるの?!
私の心臓ははちきれそうだった。
ベッドで優しく私を見つめるあのグリーンの瞳、腕をまわされ直に伝わるあの体温、胸に顔を押し付けたときに感じたトクントクンという鼓動。
何を思い出しても私から平常心を奪っていく。
タッタッと音がしてアスランも湖に走ってきた。
「ちょっと、置いていかないでよ~!僕もすぐ行けたのに!」
『ご、ごめん。』
少し拗ねたように言うアスランは私のよく知る昔のアスランだった。
バシャバシャと顔を洗って、またいつも通り朝ごはんを食べて靴磨きに向かった。