ヤマネコ-ノ-ツガイ【アッシュ】BANANAFISH
第12章 遥かなる旅路
その日小屋に帰り、ごはんを食べ終えるといつも通り湖の水でタオルを濡らし体を拭いた。
最初は一緒に湖に向かっていたが、アスランに肌を見せるのがだんだん恥ずかしくなってきた私は交代で湖に行こうと話した。
「ユウコ、おかえり!じゃあ僕も行ってこようかな?」
『うん、行ってらっしゃい』
タオルを持って私の横を通りすぎる時、なにか心配そうな目を向けてアスランは小屋を出ていった。
私は先程の出来事を思い出す。
彼は嫉妬と悔しさと怒りに溢れた目でこちらを睨みつけていた。
私はさっきはじめて気付いたのだ。
自分たちの客と他の子の客の態度の違いに。
私たちの客は決して乱暴な態度を取ってくることはない。最後は頭を撫でていく人もいるくらいだ。
周りの子は道行く人に必死に声をかけても手で払ってあしらわれているのに、私たちは座っているだけで客がきた。
周りの子がやっとつかまえたひとりの客からもらえるのは多くても50セントなのに、私たちはそう伝えても最低でも倍の額はもらえた。
それはどうして?
なんで?
その時の私には本当にわからなかった。
アスランに肩をポンッと叩かれ、思わずビクッとする。
「…っ!な、なに?僕までびっくりしちゃったよ、ただいま。」
『あ、おかえり…早かったね?…』
「うん、まあね。…寝る準備しよっか?」
私たちは小屋に元々置いてあったマットをベッド代わりにして、公園に不法投棄されたまだ綺麗な毛布をかけて寝ていた。
最初のうちはそれこそくっついて寝ていたが、やはりそれも恥ずかしくなって最近では一人分くらいの距離をあけ背を向けて寝ていた。
「ユウコ、そんな端いったら落っこちるよ?」
『大丈夫だよ、おやすみアスラン。』
「…ねえ…まだ少し話そうよ。」
『…なにを?』
「ユウコ、今日なにかあった?」
『いや、…なにもないよ。』
「そう、ならこっち向いて。」
『…………』
「ねえ、ユウコ」
『っ!…わっ…』
アスランは私の向きをグルッと変え、目を合わせた。
久々にこの距離と角度で目が合って、恥ずかしくて目をそらす。
「…やっぱりなにかあった目だ。僕に話してくれないの?」
アスランがとても寂しそうな顔をしてそういうものだから、私は黙っていられなくなってその日の出来事を話した。