ヤマネコ-ノ-ツガイ【アッシュ】BANANAFISH
第12章 遥かなる旅路
落ち着ける場所が決まった途端、疲れがどっと押し寄せて1度座ったら立ち上がれなくなった。
ヒューゴと別れてから、私たちは随分と歩き回り疲労が限界を迎えていた。
「あ~、疲れちゃったなあ」
『そうだね、また眠くなってきちゃった…』
「今何時だろう?だいぶ暗くなってきたね。ご飯食べたら今日はもう寝ようか。」
『うん!賛成!』
私たちはリュックサックから缶詰を2つ取り出しパカッと開けた。
『キャンプみたい!』
「よくふたりで公園でお弁当食べたよね…やっぱりユウコと一緒だとごはんが美味しいよ。」
『え?』
「僕…、兄さんが家を出て1人だったから…ごはんの時間が大嫌いだったんだ。言えばあっちの家でジェニファがごはんを作ってくれたけど、父さんと顔を合わせるのが気まずくて。…ジェニファは寂しいならいつでもおいでって言ってくれていたんだけどね。」
『………』
ひとりのごはんは味がしなかったよ、とアスランは言う。
私は幼いながらに苛立ちを感じていた。
ジェニファはアスランが寂しがっていることに気付いていたくせにひとりにし続けた。
彼女はアスランのパパと結婚したのだから、仮にもアスランのママのはず。
パパとアスランの仲を知っていたのに、「寂しかったらおいで」とだけ。自分は傷つかずにそれでもアスランには嫌われないように…と予防線を張る卑怯な女に見えていた。
缶詰を食べ終えると、少し元気が出てきてふたりで小屋の前の夜の湖を見に行った。
「月が綺麗だね…」
アスランはそのグリーンの瞳に月を映してそう言った。
クリアに美しく輝いていた月も次第にボヤけて、私たちはそこで眠ってしまった。