ヤマネコ-ノ-ツガイ【アッシュ】BANANAFISH
第2章 ナイトメアのはじまり
男は目を見開き、飛び退いた。
「っ!おい、銃だと?どこに隠し持っていた!?」
「ユウコ!だめ!それは僕が!!」
慌てるアスラン。
男は少し離れたテーブルに置いてある果物ナイフを手に取った。
撃たなきゃ…!
撃たなきゃ殺される…っ!!
震える小さな指で引き金に触る
引け!引き金を!
撃て!
ーー私が?人を撃つ?
人を、殺す?ーー
「お前…撃てないんだろ、そうだよなぁ?……自分をレイプする男にすら抵抗出来ず…可哀想に。」
ブルブル震える腕で引き金を引けずに、それでも銃口を男に向けたままの私に男は距離を少しずつ詰めてくる。
「なぁ、その銃を下ろせよ…今なら許して、ちゃんと可愛がってやるからよぉ!!」
男がナイフを振り上げた、その時
アスランは私の背中に回り込んだ。
銃を構える私の両手に、後ろから自分のを重ねる。
2人の全ての指が同じ位置に重なった時
耳元で
「ユウコ、目を瞑って」
と聞こえた。
その瞬間、
私の右人差し指に重なる彼の指に力が籠った。
バンッ
銃声が響いた5秒後、
言葉通りに目を瞑っていた私の頭をアスランは抱えるようにして抱き締めた。
それからすぐに銃声を聞きつけた人が窓を突き破り、部屋の中へ入ってきて慌てるように自宅へ戻り警察を呼んだ。
部屋を出る直前までアスランの胸に顔を押し付けられていた。ふと、体に僅かに距離をとってアスランは私のシャツのボタンに目をやると何も言わずに直してくれた。
アスランのシャツにも手を伸ばしたがボタンはひとつもまともについておらずボロボロだった。
たまらず今度は自分からアスランの胸に顔をうずめる、ギュッと彼の両腕が頭と背中に回りまた抱き締められる。
何も見えなかったけどもう二度とあの男の声が聞こえることはなかった。