ヤマネコ-ノ-ツガイ【アッシュ】BANANAFISH
第12章 遥かなる旅路
家のドアに繋がる階段を登っている時につまずいた。
『うわっ!』
「あぶない!」
咄嗟に腕を伸ばしてくれて私は転ばずに済んだ。
『アスラン…ありがとう。』
「暗いからね。それに僕もよくつまずくんだ。」
そう笑いながらドアを開けてくれた。
左右に広がる大きな家で、絵画が飾ってあったりクマのぬいぐるみが置いてあったりするが、ここにアスランは今ひとりで住んでいる。
「ユウコ、荷物は?」
『荷物?持ってないよ。』
「……え?ごはんとかは?」
『…………』
そこで自分が先のことを全く何も考えていなかったことに気付いた。
アスランはガタガタと戸棚を開けるとありったけの缶詰を取り出し大きいリュックサックに詰めた。
「あとは、マッチとナイフと…」
必要最低限のものを詰め込んでいく。
『アスランすごい。』
「僕もこんなのはじめてだし、これでいいのかわからないけどね…あ!あとはお金。」
そう言って部屋からビスケットの缶を持ってきた。
それを開けると、押さえつけられていたのかぶわっと紙が溢れた。
『うわあ、お金たくさん!』
落ちたお金を拾おうと手を伸ばすと、
「ユウコ、だめっ!」
と止められる。
驚いて手を引っ込めると、アスランは悲しそうな顔をして
「このお金、綺麗なお金じゃないから…きみに触ってほしくない。」
と言った。
その言葉でわかった。これはアスランが今まであの男から受けた傷の代償なんだと。
汚くない。
アスランは汚くない。
私はもう一度手を伸ばしお金を拾った。
そして自分のポケットの封筒からお金を出すと、アスランの缶のお金の上に重ねた。
『……大丈夫。』
アスランは驚いた顔をして私を見ると、
嬉しそうにうん、と言った。
お金を手頃な袋に入れると紐を締めた。
リュックサックがもう一つあったので中身を2つに分けてそれぞれ背負う。
家を出よう、という時。
アスランは正面から両手で私の手を取ると、覗き込むように私の目を見た。
「ユウコ、本当にいいの?1度ここを出たらきっともう僕は一緒に帰れない。」
『…うん。ずっとアスランと一緒がいい。』
「ふふ、僕も。……どこにいこうか?ふたりならきっと、どこでも楽しいよ。」
『うん、絶対に!』
私たちは手を繋いで故郷を捨てた。