ヤマネコ-ノ-ツガイ【アッシュ】BANANAFISH
第11章 放たれたネコ
《アッシュside》
真剣な目をしたエイジが、ぶふっと吹き出す。
「なーんて、冗談だよ!あははっ!」
目の前で目尻に涙を溜めて大笑いするエイジ。
信号が青になり再び前を向くが、まだ笑っている。
…は?
「っキミ!…なんて顔するんだよ!ああ、良いもん見たなあ!」
「ちょっと待て…俺は今とても混乱してる。」
「そんな混乱するような話、ひとつもないじゃないか!僕とユウコは何もないよ。1度だけ恋人のフリをした、ただの友達。まあ、キミがいない間に色々話すことはあったし、隣の部屋にいるから仲良くはなったけど、それだけだよ。神に誓って、ね!」
「……そう、だったのか。」
俺はズルズルと脱力して、腕を目の上に置いた。
「え、なに?もしかしてずっと心配してたの?僕らが付き合ってるんじゃないかって?」
「…ああ正直、すっげー気にしてた。お前が面会に来たとき、どんな顔したらいいか分からなかった。」
「そうだったの?その割には普通だったよ。…最後のは、その、ビックリしたけど…」
「…ファーストキスだったか?」
俺が仕返しのように笑ってそう言うと、
「…ファーストキスが男なんて、最悪だよっ!」
頬を赤らめてムスッとした顔でエイジがそう言う。
ふと、思い出してしまった。
…自分のファーストキスを。
「キミはどうなんだよ、ファーストキス!」
「……あー、」
実は今までこのことはあまり考えないようにしていた。
俺の本当のファーストキスは、あの男だと。
7歳のいつも通りの1日になるはずだった日、有名な野球選手のサイン入りグローブを見せてあげると言われワクワクしながらついて行った先で待っていた最悪の出来事。
その日から公園に行けなくなって、8歳の誕生日は記憶すらない。
ユリ、こっちがキミのファーストキスだよ。間違えないでね。
じゃあ、アスランのファーストキスはこっちだからね!
うん、おぼえた。忘れない。
私も間違えないし、忘れない、もう大丈夫。
「………ダイ、ジョウブ…」
「えっ?」
「いやなんでも…」
「…それ、って日本語…?」
「なあエイジ、俺のファーストキスも、男だよ。」
「……っ、」
エイジは何かを察したような顔をした。
「……俺、7歳のときレイプされたんだ。」