ヤマネコ-ノ-ツガイ【アッシュ】BANANAFISH
第11章 放たれたネコ
《アッシュside》
エイジ…お前はイベを裏切ってまで俺に着いてきたのは何故だ?
やっぱり、ユウコのことがあるからか…?
「…アッシュ、なんだよ。随分熱い視線じゃないか…」
エイジは気まずそうに笑ってそう言った。
「あ、いや…悪ぃ。」
「………ユウコのこと?」
「…っ!!」
「あはは!やっぱり。…キミユウコのことになると本当に分かりやすいよね。さっきだってギリギリまで演技してたのに、彼女の名前出された途端アレだもんな。」
「うるせえよ…」
「元気だよ、表面上は。…彼女もキミの兄さんのこと、とてもショックを受けてて…しばらくはコーヒーしか飲んでなかったよ。最近はようやく少し食べられるようになって、今朝は…」
「随分“仲良し”なんだな。」
「え?」
「俺がいない間に、イイことあった?」
「え、キミなんの話をしてるの?」
「マックスに会いに来たろ?手を繋いで。」
「っ!…あ、あれは違うんだよ。彼女の正体がバレないように恋人のフリをって言われて。」
「へえ…日本人って恋人の“フリ”で熱いハグなんかしちゃうんだ、それは知らなかったな。」
「いや、それは…」
「“She is mine”…だっけ?」
真実を聞きたいだけなのに、トゲのある言葉しか出てこない。
「キミは勘違いをしてるよ。」
「勘違い?どこが?」
「…ああ、いや、勘違いをさせるようなことをしてしまったのは事実なんだけど。面会ホールに行った時、そこにいた人たちがユウコにしつこいくらい話しかけて、ニヤニヤした嫌な視線を送るから仕方なく…」
エイジは苦笑いから少し何かを考えたような間を作って、グッと眉を寄せた。
「…あぁ、ごめん…やっぱり正直に言うよ。あの時は、本気で『僕の彼女を見るな』って思った。」
信号が赤になったタイミングで、エイジも俺に視線を向ける。
「キミの大事な人だけど、あの瞬間だけは僕のものだったよ。」
俺はまさかエイジからそんなことを言われるだなんて想像していなくて、開いた口が塞がらなかった。