ヤマネコ-ノ-ツガイ【アッシュ】BANANAFISH
第10章 檻の中のLynx
《アッシュside》
「あんたを憎めたら、と思うよ。誰かを憎まなきゃ救われなかった…俺は兄貴に育ててもらったんだ。兄貴がいなかったら俺は飢え死にしてた。…それが、薄汚ねえ病院で見つけた時には兄貴はひとりでトイレにも行けないありさまだったんだぜ…」
「それでグリフィンを連れ出したのか?」
「ああ、そうだ。でももうそれも終わりだ…。兄貴が死んだってことが、不思議なくらい嘘じゃないってわかる…本当にグリフィンはもういないんだってことが…」
「そうか…おまえも辛かったろうな…」
「よしてくれ!…同情なんかまっぴらだぜ!」
「同情じゃないさ…同情なんかじゃない。そんなガラじゃねえよ。つらいのは…お互い様ってとこかな…。まあ飲めよ。ほんとは飲めるんだろう?」
そう言って酒の入ったコップを差し出され、それを受け取る。
ひと口飲むと、久々に飲んだ強い度数のアルコールが喉を焼くようだった。
「…うまくねえな。」
「俺だって、うまくて飲んでるわけじゃないさ…。そういや…あの日本人カップルは何者なんだ?」
「あ?……あぁ、エイジとユウコのことか。エイジ・オクムラとユウコ・リンクス。エイジは日本からイベの助手で来たって言ってた。ユウコは……なんていうか…その、」
「は?ちょいちょい!待てよ。お前、今ユウコ・リンクスって言ったか?」
「ああ、言ったよ。え、知り合い?」
「バカ、ちげえよ!リンクスって…なんでお前と同じ名乗りなんだ?…ああっ!?もしかして、お前の妹…なわけねえか…カーレンリースだし………え、…嫁さん?」
「……違う。昔事情があって日本から来て…俺とは幼なじみなんだよ。それから…まあ色々あって、そうなった。」
「…なんだよ、色々って!さっきも言い淀んでたし煮えきらねえな。……あ!ってことはもしかしてお前、友達の彼女好きになっちまったとかそういうことか!?…わかるぜ、東洋の髪にあの顔立ちだもんな。」
「………友達の彼女、か…あいつ本当にエイジと付き合ってんのかな…」
「いや、おいまじかよ。お前…あの子のこと好きなの?」
「…初恋だよ。悪ィか…」
俺はグイッとコップの酒を一気に煽って、座っていたおっさんのベッドにバタンと寝転んだ。