ヤマネコ-ノ-ツガイ【アッシュ】BANANAFISH
第10章 檻の中のLynx
中に入ると、家具はソファとテーブルだけのシンプルな部屋だった。
「まあ、座れよ。」
私はショーターと向かい合うように座った。
「…話、なんだけどよ。」
眉を寄せて辛そうな顔をするものだから、あまりいい話ではないなと感じた。
「……あ、あのさ」
『ショーター、私ちゃんと聞くから…いいよ、話して。』
「……アッシュの兄貴が、死んだ。」
『……!?』
「ついさっき、12時30分くらいだから…まだ2時間ちょっとか…」
『…そんな…』
「突然急変して、たまたま張大にいたエイジとイベも病院に来て間もなく、な。…お前にもすぐ連絡してやりたかったんだけど、冷静じゃない状態のお前を1人で歩かせるのは危険だと思ったから…悪かった。」
『謝らないでよ…、ショーターは悪くない!…それにショーターはグリフの最期の瞬間にそばにいてくれたんだよね…ありがとう。』
目の前がグラグラと揺れる。
声を上げて泣く、とかじゃなくて…
じわじわと涙が染み出してくる感じ。
グリフ、今この瞬間にもうどこにもいないんだ。
あの大きなあたたかい手のひらは、
幼い頃と何も変わっていなかった。
アッシュを迎えに来たグリフが、また明日ねって頭に手を置いてくれるのが好きだった。
あの手に触れることはもう二度とできない。
…叶うことなら、アッシュにもう一度触れてあげて欲しかった。
私にしてくれたように、
頭を撫でてあげて欲しかった。
「ユウコ、大丈夫か?」
『……ッ…ショーター、…大丈夫だって言ってよ…っ』
「……っ」
『ショーターが言って、くれたら……大丈夫になると、思うんだ…』
「…ユウコ、」
『ねえ、お願いショーター…大丈夫って、言って?』
「…大丈夫だよ、ユウコ。」
『…うっ……っ、…』
ショーターは立ち上がり、私の隣に来ると肩を抱いて引き寄せる。
「大丈夫だ…、大丈夫。」
子供をあやすようにトントンと触れる。
『…っ…ショーター……ぅ、…大丈夫、だよね?』
「…ああ、ユウコ…お前は絶対大丈夫……あいつも、絶対大丈夫だからよ。」
私の顔を覗きこんで、
ショーターはとても悲しそうな顔でニッと笑った。